あれから…。

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まほろばでは変わらず本を貸し出して、希望があれば本を作る。 店主は直接話しは聞かず、定位置で耳を傾ける。 何故か一ノ瀬のお父様が結婚式の半年後に店を訪れて、ご自身の本を作られた。 先祖代々、守って来た小さな本屋の話だった。 ーーー 初めてそれを見たのは多分偶然で、見えた事で父親からお前が跡を継ぐのだと言われた。意味も分からないまま跡を継いだが、大人になると今更邪魔臭いとも考えた。結局、謝りに行く形になり大事な長男を人質の様に取られてしまった。 が、考えたらそこで暮らす事は本当に長男にマイナスだったのか、今は分からない。 不幸だったのか、幸せだったのか……申し訳ないと思う気持ちだけはある。 だがそれもその店に喜んで飛び込んで来た女性により、薄れたと思う。 大事な店をどうかこれからもよろしくと、息子達の幸せと平穏な暮らしをただ祈るだけだ。 小さな祈りが、小さな店を守って下さいます様に…。 ーーー 本の最後には祈りの言葉が綴られていて、不器用なお父様らしい文章に櫂流も読んでは涙していた。 まほろばは今日も小さな願いを聞きながら、祈りを聞きながら、若い店主と九官鳥がそこに存在していて優しい声の女性が客を迎える。 「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ。」 変わらない笑顔で、店は古い建物のままここにある。 人に近付いた優しい神様は変わらずに此処にいる。 もう少し時間が流れたら、新しい命が賑やかにこの「場」を彩る事だろう。 変わらない事、者、場所……変わりゆく人、暖かい場所はそのままに…。 〜〜 「あぁ〜〜!泣くなよ!大樹(だいき)。見ろ!二方の羽根はこぉ〜んなに広がるんだぞ?」 手足をバタバタさせてなく赤ん坊のベビーベッドの柵に止まり、二方はあやそうと自慢気に羽根を広げるが、逆効果でさらに泣かれる。 「おい!このは!!」 「もうちょっと、待って下さい?」 遠くから声が聞こえる。 「おいおい……。何でこんな大きな声が小さな体から出るんだ?」 困り果てた二方に店主が声を掛けた。 「それは小さいからこそではないか?」 ヒョイと抱えると大樹は泣き止む。 「さすが…主。」 「我ではない。これが暖かいのだ。」 二方は意味が分からず不思議な顔をして主を見ていた。 「ありがとうございます、店主。」 このはがお礼を言い、大樹を受け取る。 作ってきたミルクを与えながら、大樹を見ると手は店主の着物の袖を引っ張っている。 (ここで店主にこんなこと出来るの、大樹だけよね?) このはは微笑んでそれを嫌がらず、逆に嬉しそうな店主を見つめる。 暖かい場所、このはの少し変わった家族がここに居た。 ーーー 完 ーーー 2019、10、30
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