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次の日、一ノ瀬が来る前に朝早く店主に呼ばれる。
二方も神棚の前にいるので大事な話だとすぐに気付いた。
「おはようございます。お話をお伺い致しましたら1時間程失礼して、その後でまたお邪魔致します。」
丁寧に頭を下げた。
『このは。例の男の事だが…店が休みの今日、決行しようと思う。』
「畏まりました。深夜で宜しいですか?日付けが変わる前ですか?」
『変わる前に終わらせたい。』
「準備しておきます。」
『一ノ瀬には報せずとも良いのか?』
「店主代行は私です。店主には頼りない事と思いますが、精一杯、務めさせて頂きます。」
『いや?なかなかに頼もしい。願いを聞く事が最善だが、無理なら追い出す。
その方向で頼む。』
「はい。了承致しました。では失礼致します。」
背後の和室に両手を突いて下がる。
襖を閉めて、神棚から神が箱庭に帰るまで襖は閉めたままにしておく。
ふぅ…とため息を吐いて、横にいる二方に前を向いたまま話し掛けた。
「朝ご飯…食べましょうか?梨、剥きますね。この間秘書さんが持って来ました。食べ終えたら掃除を開始しましょう。」
「ああ…。このは、大丈夫か?これで4度目か。このはは同調して引きづられ過ぎだ。そのうち精神が壊れるぞ?もっとドライにならないと…。」
「結構…ドライだと思うけどな?」
立ち上がり答えた。
「俺はこのはが代行をしてくれて嬉しいし頼りにしているが、危ない事はして欲しくない。店主復活は近い。無理をする必要はない。のんびりでも2年のうちにはこのままでも十分、復活出来る。」
「別に焦っているわけではないですよ?」
階段を下りながら話す。
「店主がやるというならやるのみです。追い出すよりは話を聞きたいだけです。追い出してしまったらどうなるか分からないから…。うちの店に来た人には不幸になって欲しくないんです。それだけです。」
「それがお人好しって言うんだぞ?分かってるな?俺は手伝えない!前回みたいにいつもすんなり成功するとは限らないんだぞ!」
「分かってます!二方さんが心配してくれている事も、分かってますよ?
梨、すぐ用意しますね?」
笑顔で言い、二方を休憩部屋の止まり木に残して、台所へ向かった。
梨を剥いて戻り、サイコロ状に切り分けた梨を休憩部屋のテーブルの上に置いた。
「じゃあ、私も食事して来ます。」
「一ノ瀬が来たら、このはは出掛けたと言っておく。」
梨を啄ばみながら二方は言う。
「意地悪ですね?まぁ、それで信じて帰って下さるなら…それもいいですけどね?」
笑いながら、少し寂しそうにこのはは答えた。
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