あーちゃんからの手紙

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夏休みの宿題に、『自分史』というのがある。 0歳から今までの様子を家族にインタビューするというやつだ。 インタビューをまとめて、 写真も貼らないといけない。 今、僕は、納戸で写真を探している。 真夏の納戸は、暑い。 汗がこめかみを流れた。 カメラが趣味の父さん、 メモ魔の母さん。 この2人のおかげで、僕の家には膨大なアルバムがある。 写真だけではなく、なんかのチケットの半券なんかもとってあるから、パソコンに保存ではなく、アルバムなのだそうだ。 初めて描いた絵も挟んである。 線だが、丸とも判別できない、殴り書きのようなもの。 僕の初めて食べたキャンディーの包み紙なんかもあった。 まるで、ストーカーのコレクションだ。 インタビューを始めたら、終わりそうにない。 気が重い。 僕は、生まれた時、1歳、2歳と、使えそうな写真をピックアップしていく。 4歳になると、絵もなんだか、人と分かるようになった。 僕が絵が下手なのは、生まれつきらしく笑ってしまった。 『ママ』と母さんの字で書いてある上にはどうみても禿げた人が描いてあったからだ。 5歳のページには、僕の名前を書いた切り抜きがいくつも貼ってある。 ひらがなが書けるようになったのは、どうやらこの時期だったようだ。 ひときわ目立つ、赤い折り紙が貼ってあった。 折り紙の裏に、絵を描いたようだ。 他の絵と違うから、僕が描いたものではなさそうだ。 男の子、女の子の周りに、ハートやお花、星が描いてあり、どうやら女の子が描いたものらしいかった。 絵の横には、 『ゆうくんへ ゆうくんとけっこんできて、うれしかったよ こどももうまれてうれしかった あーちゃんより』 と、書いてある。 ゆうくんは、僕の名前だ。 けっこん?! こども?! 僕は、10歳、小学4年生だ。 『あーちゃん』 あーちゃんとは、誰だろ。 幼稚園にいた子だろうか。 「ゆうー、アルバムあったー?」 母さんが、納戸に入ってきた。 僕は、とっさにアルバムを閉じた。 顔が赤くなっているのがわかる。 「きゃぁぁ、かわいい♡」 僕の赤ちゃんの写真をみて、母さんが声を上げた。 僕が『あーちゃん』と結婚するのは、ずっとあとの話だ。
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