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プロローグ
惚れっぽい、というのが、彼女に対する周囲の人間の共通認識だ。
好きになる男性のタイプは全くいろいろであり、何が彼女の「惚れスイッチ」になるのかわからないのではあるが、とにかくオギャーと母親の胎内から産まれて27年、彼女は度々、コロコロと恋に落ちては、フラれて、また落ちる、という恋のルーティーンを仕事のように繰り返している。
彼女こと、春野凛、27歳独身。
都内の駅構内に直結した複合商業施設内にある書店で児童書売り場の担当をしている入社8年目の社員だ。明日は休みという最高の夜に、彼女は人生でまた何度目かの恋に落ちようとしていた。
栗色に染めたヘアカラーが落ちかけている髪を無造作に束ね、行きつけのブックカフェの隅の、店内が見渡せる席に座り、さっきから鼻の下に差し込んだシャープペンをつぼめた上唇に載せている。その無邪気な表情は20代後半にしてはやや子供っぽく見える。目、鼻、口、眉毛、一つ一つのパーツはそれなりに整っていて愛らしいといえるのだが、いかんせん、すっぴん、着ている服も着古した上下グレーのスウェット、足元は踵を履きつぶしたスリッポンと、色気も素っ気もない恰好である。そんな恰好の彼女は、目の前に置かれたパソコンの画面とにらめっこしている。
「ここで、キスするにはまだ早いよね?」
と、彼女が顔を上げると、ちょうど白いシャツに黒いエプロンをした一人の見目麗しい青年が持ってきていたコーヒーのお替りを彼女のマイカップに注ごうとしていたが、それを聞いた驚きにコーヒーの液体を手のひらに零してしまう。
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