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「先輩、お風呂どうぞ」
数十分後、ソファ席を二つ繋げベッドのようにして、そこでお腹の上にノートパソコンを置いて執筆している凛に上半身裸で肩からバスタオルをかけた山辺は声をかけた。しかし、凛は集中していて返事すらしない。
山辺は深呼吸した。そして、さっきシャワーを浴びながら何度も一人ぶつぶつと練った作戦をいざ、実行に移すことにした。
「先・輩」
「ん、ちょっと待って今、いいところだから」
「ねえ、先・輩」
「うん、後で入るから…」
なかなか顔を上げない凛に山辺はその眼前のノートパソコンをパタンと閉じて、ずいっと凛のお腹の上に跨った。
「何やってんの?書けないじゃない」
山辺は意地悪く凛を見つめる。
「先輩がこっち向いてくれないからですよ」
「あのね、今、それどころじゃないの。こっちは二人がついに結ばれるところをどう書こうかって山場迎えてるのに…」
「じゃ、リアルに愉しんでみましょうよ」
山辺は妖艶に見えるように微笑んだ。色気をたっぷりと含ませた笑みにきっと先輩は落ちるに違いない、とちょっとぐらついてはいたが期待を込めて。
凛の目が訝し気に変わる。
「それってどういう意味?」
「今のこの状況をってことです」
「重いから、どいて」
山辺は余裕そうな笑みをたたえたまま、動こうとはしない。
「僕が半年前、先輩と再会してからわかったことがあります」
「何よ、急に」
「先輩って意外に昔の僕の事、けっこう覚えてますよね?」
「まあ、顔だけは目立ってたし、女子に迫られてもどう断っていいかわからず私に泣きついてくるような、頼りない後輩だったからねぇ」
凛は呆れた視線を送るが、山辺は眉根を上げてふふと笑った。
「それだけ僕の事、気になってたってことじゃないんですか?」
凛が首をゆっくりと真横にかしげていく。
「んー、どうだろう。まあ、ほっといたら顔だけで寄ってくる遊び人にひっかかりそうでそれを陰で守ってあげてた感はあるかな。ねえ、いい先輩だと思わない?ちょっとは感謝してよね~」
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