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「とりあえず、何か思い出すような事があれば、署までご連絡を」
そう言って二人の刑事は山辺が運んで来たホットコーヒーを同時に一気飲みすると二人申し合わせたようにげっぷをした。
「すみませんね、お昼に餃子食べたもんですから、ハハハ」
そう薄毛はいい、照れ笑いをすると、じゃ、これはお預かりしますね、と凛の名刺を大事そうに背広にしまうと、店を出て行った。
「先輩、そういえば、さっき、何て言おうとしてたんですか?」
山辺はテーブルを片付けながら、凛に声をかけて、ぎょっとした。凛がいつの間にかテーブルに突っ伏して泣いている。
「無理無理、ぜーったい無理。げっぷとか、無い」
そう呟いてうなだれた凛の小刻みに震える肩に山辺は凛がたった今、失恋したことを知った。そして、今この時こそ慰めるチャンスだ!とその丸い撫で肩に優しく手を置いてみる。
「未婚の良い男ならまだいますよ?」
「どこに?」
山辺はここに、と自らを指さして、いつ凛とキスしてもいいようにいつも丹念に磨いている極上の白い歯とスマイルをここぞとばかりに解き放った。
凛は盛大にため息を吐くと、はいはい、といって肩から山辺の手を外すと、ノートパソコンの前に座り直した。
「やっぱり、瀬戸さんひと筋でいかないと、ってことね。送信っと!」
と言いながら、瀬戸へのメールを送信しようとするから、山辺は慌ててその手を掴み、阻止しようとする。
「ちょっと止めてよ、離しなさいよっ」
その時、店の呼び鈴が鳴り、一人の少女が入って来た。大柄で背の高いその少女は丸誠高校の制服を着ている。ずっと走ってきたのか息を切らしている。少女は火照った頬に潤んだ瞳をして、山辺に駆け寄ると凛を突き飛ばすようにすがりついた。
「店長さんですか!」
「そうですけど…何か?」
「あ、あの、聞いて欲しいことがあるんです!」
少女の大声に周りの客が注目した。山辺はこのシチュエーションに何度か出くわしていたことがあったので、今回もそれかと思った。
「…ああ、そういう話ですね。そういう話なら裏で聞きますね」
また、告白されちゃうのかな、僕ー、と凛に言うと、店番を頼みます、と、ドヤ顔で告げ、彼は少女を連れて店を出た。
「何、あの目!あの顔!あの態度!なんかムカつく~!」
凛は苛立ちながらも、ネズミがトラウマになって怖くて帰りたくないと嘘を吐き、もう一週間もカフェに居候させてもらっている身としては、店主に逆らうことはできないと店番に席を立ったのだった。
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