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「家もかなりの豪邸でお金持ちだったらしい。そこで気になるのは、もし彼がいなくなった理由が<家出>ではなかったとしたらどうなる?」
「どうなるんですか?」
「家出っていうのは、自主的にするものよ。千穂ちゃんの話を聞くと、涼也君は最近家に帰らないで、その不良仲間の家に泊まったりして、塾にも来てなかったっていうの。つまり、ご両親は彼の家出に慣れていた。だから今回いなくなったもの、また不良仲間と一緒にいるのだろうと、探さなかったんじゃないかしら?」
「探さなかった…そっか、だから警察に届けるのが一週間後になってしまった理由という訳ですか。なるほど」
「つまり、涼也君は家出常習犯で、ご両親は見放していた。だけど、なかなか帰って来ない息子がいよいよ心配になって、警察に捜索願いを出したってことだと思うわ」
ふいに湯上りで軽く結っただけの凛の後ろ髪が崩れ、項にひと房たらりと垂れた。それをすぐ真横で見てしまった山辺はいよいよ、ヤバイぞと騒ぐ煩悩を一人抑えつけた。三日月探偵の相棒として、ここは煩悩に溺れている場合ではない、しっかりサポートしなければ!彼は凛に襲いかかりたいオオカミ心を抑え、咳払いをした。
「でも、家出ではなかったとしたら、どうなるんです?」
「彼の家は少なくとも裕福。金銭目当てのトラブルに巻き込まれた可能性も考えられない?」
「まあ、確かに…」
「もう警察もあたってるかもしれないけれど、その不良仲間とやらに話を聞いてみる必要がある気がする」
「先輩って、明日仕事休みですか?」
「うん」
「うちも明日は定休日です」
凛の顔がパアッと輝く。
「確かめに行く?」
「はい、喜んで。先輩のためなら火の中水の中、事件の中。先輩をヤンキー達の毒牙から守るのが僕の役目です」
凛はアイスをペロリと舐めて、にっこりと笑った。
「山辺、なんか、かっこいい」
「え?せ、先輩に初めてかっこいいって言われました…」
山辺、嬉しさに涙が…
「いや、間違っても惚れてはいないよ?」
山辺の涙はあっという間に悲しみの涙に変わる。
「でも、ありがとう!」
無邪気な彼の可愛い探偵はそう言って花が開くように眩い笑顔を見せたが、次の瞬間はっとして、いけない、笑い皺が濃くなっちゃうと、真顔に戻り、またペロペロとアイスを舐めながら、ホワイトボードに広がる推理の世界に思考を戻してしまった。ああ、あの可愛くも卑猥に動く舌を僕もいつか味わいたい、そんな日は来るのだろうか、と山辺は再度むくむくと動き出した煩悩に身を捩りながら悶えるのだった。
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