一目惚れは事件のはじまり

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「お待ちどうさまです、ナポリタンです」 ナポリタンを作っている間、凛と瀬戸はいつの間にか隣同士で席に座って、パソコンを見ながら凛が書いている恋愛ドラマの脚本について熱心に話していた。そんな親密そうな凛と瀬戸の間に分け入るように、山辺は熱々の湯気を立てたナポリタンを置く。 「ちょっと、待って、今、いいところだから。あっちのテーブルに置いておいて」 「だめです!ナポリタンは熱々でないと美味しくないですから。はい、どけてどけて~」 反論する凛のパソコンを取り上げると、山辺はナポリタンの二皿をテーブルに向かい合うように置いた。皿を向かい合わせに置けばきっと凛は元通りに向かい合わせで座り直すだろうという作戦だ。が、山辺の思惑に反して凛はナポリタンを手で引き寄せ、瀬戸の隣の席でいただきますー!と食べ始めてしまった。どうやら、瀬戸にべったり、の様子。山辺は眉間に皺を寄せる。 「あのう、お水をいただいても?」 瀬戸に遠慮がちに声をかけられ山辺は美味しそうに普通盛りナポリタンを食べている凛を睨みながら、瀬戸のコップの水を注いだ。 「ありがとう。君は春野さんのお友達なのかな?」 瀬戸は山辺に友好的な笑みを浮かべて尋ねた。山辺もここは大人の対応をしなければ、と内心燃えたぎるライバル心を引っ込めて、クールな笑みを作って答えた。 「凛先輩の事は高校の時から知ってます。同じ家庭科部で同じ鍋からできた肉じゃがを食べた仲です。部活の後は僕が家まで送ってました」 「家の近くまでね。方向が一緒だったからなだけです。(瀬戸から山辺を遠ざけながら小声で)…ちょっと、そんなこと今言わなくていいから。ほら、お客さん来たよ」 凛に睨まれた山辺は水を注ぎ入れたコップをバンと置くと、入って来た数人の客の方へと引き上げていった。壁の時計は午後7時半を指す。外の雨は強さを増し、瀬戸のように雨宿りに立ち寄ったり、夕食をここで済ませようとする客が多くなる時間帯でもあった。 「なんだか、彼、怒ってませんか?」 瀬戸は山辺が気になるようだ。 「気のせいですよ、気のせい。さ、さっさと食べましょ、先生!」 「先生は照れるな」 瀬戸はさらさらの黒髪をかきあげながら、照れくさそうに微笑んだ。 「照れた先生も素敵…」 「え?」 「あ、独り言です!それより、温かいうちに食べましょ!」
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