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それから三日後の夜、閉店後の「ロバの耳」で山辺は千穂と母親が涼也の母である加奈子と会って来た時の会話が録音されたボイスレコーダーを聴いていた。
『加奈子さん、随分痩せたみたいだけど、体調は大丈夫?』
『うん、心配かけてごめんね。あれからあまり食欲も無くてほとんど眠れていないの。目を閉じるとあの子が病室で眠る姿が浮かんできて、自然と涙が止まらなくなってしまって…』
『あの…』
千穂の声が聞こえた。
『何かしら?』
『お見舞いに行ってあげてください。大変だとは思いますが、涼也君が可哀そうです』
『ごめんなさいね、うちの子、涼也君のことになるといてもたってもいられなくなるみたいで…千穂、それはご家庭の事情があるから…』
『いいえ、その通りね。』
『加奈子さん』
沈黙があったのち、加奈子の声がした。
『私も行きたいのよ、毎日でも。でも家族に止められてしまうの。行ったって状況が変わるわけじゃないんだって。酷いでしょ?病室に行って泣きぬれる暇があったら、警察に協力して犯人捜しした方が建設的だ、なんて言われて』
『本当に?』
『情けない家族よね。本当に情けない…あ、ごめんなさいね…』
鼻を啜り上げる音がした。加奈子が感極まって泣いているのだ。
山辺はボイスレコーダーを止めた。
要するに、涼也君は生前から家族に相手にされておらず、植物状態になった現在もそれは変わっていないということか。
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