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「どんなにお金持ちの家に産まれても愛されないんじゃ、マジキツイよね」
耳元で聡子に言われ、山辺はびっくりしてのけぞった。
「びっくりした!声ぐらいかけろよ」
「かけた」
聡子はふうっと疲れたように椅子を引き寄せ、ホワイトボードの前に座った兄の隣に腰かけた。
「わ、なんかお前酒臭いぞ」
「なんか、気持ち悪い…」
山辺は慌てて、聡子に水を持ってきてやった。聡子はそれをかぶかぶと一気飲みすると、山辺にふっと微笑んだ。
「兄貴の代わりに身体を張って、裏取って来たよ」
「は?」
「その瀬戸って男が事件当日、この店を出た後、社長と飲み明かしてたっていう会員制のバー、突き止めたの」
「え、お前それどうやって?」
「フ…こう見えても夜の蝶って言われてたあたしの人脈あなどらないでよね」
「夜遊びに明け暮れてただけだろ?」
「だって楽しいじゃん」
「で、裏は取れたのか?」
聡子は山辺にすっと手を出す。
「夜のバイトしてた頃の方がもうかっててさ、今、かつかつなんだよね」
山辺、今回だけだぞ、と仕方なく財布から1万円を出し、聡子に渡した。
「助かるー!あんがと」
「それで?」
聡子は真面目な表情に戻ると、ホワイトボードに山辺が書いていたある一文に赤のマーカーで×をつけた。
《9月30日夜21時以降~明け方まで 瀬戸には舘野社長と飲んでいたアリバイあり》
「×って…」
「9月30日の夜、バーの店員が言うには、二人は連れ立って21時半頃来店したらしいの。でも、瀬戸はそれから一回、店を抜けたって」
「店を抜けた?何時頃だ?」
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