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結局その後、凛は上機嫌で「愛の賛歌」を歌いながら、皿洗いを一手に引き受けた。その間、山辺は店の掃除をしながら、そんな凛を愛らしくも、その機嫌の良さが瀬戸から来ていることに落胆しつつ、それを聞いていた。
「終わり~!んじゃ、帰るね。アデュー」
凛は最後の皿を拭き終えると、山辺に片目を閉じてVサインで敬礼すると、肩に鞄をかけて店を出ていこうとする。店を掃除していた山辺は慌ててエプロンを外し、椅子にかけていた自分のカーデイガンを手にした。
「待ってください。僕、送ります」
「いいよ、近いし」
「でも、もう遅いし」
「大丈夫だって…」
「ダメです。何かあったらどうするんですか」
山辺はちょっと強い口調で言うと、凛は驚いたように目をしばたく。
山辺は凛の肩にかけた鞄を奪って、ひょいと自分の肩にかけてしまう。
「ちょ、ちょっとそれ、乱暴に扱わないで、大事なもの入ってるんだから」
「先生からの名刺ですか?」
「ま、まあ」
「じゃ、なおさら、夜道でひったくりとかにあったら大変ですから送らないと」
「…ん、そうか、それもそうだね。じゃ、頼むわ、用心棒!」
二人はともにカフェを出て、山辺は店の鍵を閉めた。それからスープの冷めない距離ほどにある凛の暮らすマンションへと向かう。
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