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「あの…なぜ私を拉致する必要があったんでしょう?」
凛が真島刑事に恐る恐る聞くと、横に座っていた山辺が呆れたようにため息を吐いた。
「先輩、まさかわかってない?」
真島刑事が苦笑した。
「?」
凛が判らないといった顔をするので、山辺は凛を咎めるように睨んだ。
「先輩は人質にされたんです」
「人質?どういうこと?」
「いずれ自分が犯人だと分かった時、先輩を人質にして、自分の身を守るために」
「犯人…って、そっか、田中麻美さんを殺したってバレた時に、私を盾に逃げるためってことか…」
「まあ、先輩は利用されたんですよ。先輩が好意を持っていることを逆手に取って、自分の屋敷に匿う。田中麻美を襲った犯人から守ってあげると言えば貴方はきっと信じてくれると読んだ。何しろ、先輩は惚れっぽいですから」
凛は山辺に返す言葉が無かった。図星だったからだ。
「だから言ったでしょう、気を付けてくださいって」
凛は申し訳なさそうに山辺を見やった。
「でも…それだけじゃないと思うんです。真島刑事」
「はい?」
山辺は真剣なまなざしになった。
「舘野涼也君の事件にも彼は絡んでいます。彼は舘野浩二と共謀して、舘野涼也君を誘拐、そして殺害しようとした」
二人の刑事達は食べていたナポリタンを吐き出して、山辺を見つめた。
「共謀ですか!」
「あの事件の夜、二人のうち、舘野がこっそり店を出て、涼也君を拉致した車で事件現場に向かったと思われます。そして、瀬戸は店に残っていたと店員が証言しています」
「おかしいな。あの夜勤務していた店員には聞き込みをしたのですが」
「さぼっていた事を隠していた者がいた、ということでしょうね」
「…」
二人の刑事は顔を見合わせた。
「その店員は後ろ姿から瀬戸が店を出て行ったと思ったようですが、それは実際には舘野でした。舘野は普段は浴びるように酒を飲むようなのですが、その日は酒を一滴も飲んでいなかったそうです。理由は瀬戸がその夜はずっと店にいたという、アリバイを作るため、です」
「なるほど。瀬戸はずっと店で飲んでいたことになれば、彼に疑いは向けられないことになるな」
真島刑事が頷いた。
「だけど、なぜ、二人は共謀して、涼也君を殺そうと?」
「今わかっていることは二つ。二人とも涼也君の父親に恨みを持っていたということです。瀬戸は賢二氏の誤診により数年前に妻子を無理心中で亡くしている」
「何…?」
それは賢二医師の秘書が山辺に漏らした秘密であり、世間では公にされていない出来事だ。山辺は刑事達や凛に真実を話した。
「…なんてことだ」
「瀬戸は誤診を闇に葬り、家族と幸せに暮らしている賢二氏が憎かった。そしてそれを兄である浩二氏は知り、浩二氏の妻と不倫の関係にあることを日頃から憎らしく思っていた彼は瀬戸に賢二氏への復讐を持ち掛けたんでしょう」
「最低過ぎる…」
凛は涼也をお見舞いに行った時の賢二はいかにも温厚な紳士のようだったのに、信じられない思いでそう漏らした。
「それでも賢二氏は自分の息子、涼也君が植物状態になってしまったというのに、お見舞いにすら行っていないそうです」
山辺の言葉に二人の刑事は酷いものだと首を横に振った。
「…ちょっと待って」
凛がその言葉に反応して、山辺を見た。
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