episode・6 未練。

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「今の本当?お見舞いに行ってないの?」 「先輩がいない間に千穂ちゃんが店に来て、家族が誰も見舞いに行ってないって嘆いてました」 「本当?涼也君が発見されて病院に運ばれた日、瀬戸さんとお見舞いに行った時、お父さん号泣してたの。涼也君はもう歩くことも話すことも一生できないまま終わるって涙を流してた。なのに、あれからお見舞いに行ってないなんて信じられない」 「ほぼ毎日お見舞いに行ってる千穂ちゃんがそう言ってるんです」 凛は山辺にそう言われても信じられない気持ちでいっぱいになる。 「まあ、人間、外と内で見せる顔は違いますから」 真島刑事が言った。 「私は事件の度に、そういう人間をたくさん見て来ましたよ」 定年間際の刑事が言う、重みのある言葉だった。 「賢二氏もきっとそうだったのでしょう。外では息子を愛し、中では冷たくあたっていた。家族にはいろいろあります。きっとどんな家庭にもね」 凛の脳裏にはなの事が浮かんだ。 涼也君は可哀そうだな。家族誰にも構われず、植物状態になっても、会いに来るのは家族以外の人間だけなんて。 でも、待って、何か大事な事、忘れてる。 凛ははっとした。 「ねえ、瀬戸さんと舘野社長が犯人だとして、事件の夜、舘野社長が涼也君を事件現場に連れて行って絞殺しようとしたのよね?じゃあ、その後、彼の蘇生措置をしたのは、誰?」 そう、この謎はまだ残っている。 「僕もそれをずっと考えてました。あの晩、瀬戸にはバーにいたというアリバイがある」 山辺も後を続けたが、二人の刑事達も思考を巡らせた。 「…田中麻美は?」 剣持刑事が携帯を取り出し、どこかに電話をかけ、暫く相手と話した後、通話を切り、皆に伝えた。 「施設長によると、田中麻美は事件当日、仕事でした。ただ、早朝勤務の為、勤務は15時まで終わりです」 「15時なら、十分に事件現場に行ける時間よね」 「でも、取り調べをするにも本人は…」 彼女はすでにこの世にいないのだ。 「他から手がかりを得るしかなさそうです!」 剣持刑事が敬礼をしながら言った。 「だが、田中麻美が涼也君の居場所を知っていて駆け付けたとして、彼女が涼也君を助ける理由を探るということか…」 独り言のように真島刑事が呟いた。 「知っていたとしたら、彼女も共犯者の一人になりますよね。もし知らなくて偶然に発見したというのは、まずありえない気がする。だって観光名所でもない住宅地の外れの寂れた病院の跡地よ」 凛の推理に皆は頷いた。
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