episode・6 未練。

10/15
133人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
そして、凛を見つめ、深々と頭を下げた。 「それは二つとも、真実です」 「…」 「涼也君はかねてより私の作品のファンでした。最初はドラマの感想を言ってくれて、私も聞くのが楽しくて、自宅に招待しては、二人であの地下室でお茶を飲みながら語りあったものです。ところがある日、彼が進路の事で父親と喧嘩になり、家を出てきて数日家に泊めた時、死にたいと言ったんです。父親に他の優秀な兄達と比べて頭の悪いお前はお荷物だと面と向かって言われたそうです。だから僕は彼に自殺を考えているなら、お父さんに復讐して死になさい、と言いました。彼が殺されたと知ったらきっとお父さんは一生後悔してくれるはずだと読んだんです。後は貴方の推理した通りです」 瀬戸の言葉に後ろで聞いていた真島刑事と剣持刑事が険しい顔になり、凛に子声で耳打ちした。 「やっと供述をしてくれました。さすが三日月さん」 「わからない。なぜ、先生は涼也君を殺さず、植物状態にしたのですか?」 瀬戸は言った。 「彼の父親に障がいを持つということの重みを感じて欲しかったからです。私の妻子は無理心中を図り、妻はその時に亡くなりましたが、子は生きているのです」 「え…」 「今の涼也君と同じ蘇生後脳症で、植物状態に陥り、今も私の郷里の病院で生きております」
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!