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「お待たせ~!」
まるで、彼女を待っていた彼氏のように山辺は腰かけていたガードレールから勢いよく立ち上がったが、戻って来た凛が大きなスーツケースを抱えているのに気が付き、唖然とする。
「さ、行こう」
さっさと歩き出す凛を慌てて追いかける山辺。
「あの、荷物多くないですか?」
「ああ、そんなに中身入ってない。入れる鞄、他に見当たらなくてさ」
「そ、そうですか…」
やがて「ロバの耳」に戻った二人。凛は先ほど、瀬戸と親密に話していたテーブルを陣取り、スーツケースを開いて、ノートパソコンをテーブルに置いた。
「じゃ、ここだけ照明点けさせてね。おやすみ~」
と、執筆を開始する。
「先輩、本気で徹夜するんですか?」
「当たり前でしょ!早くお話完成させて瀬戸先生に読んでもらわなきゃ!」
凛はええと、ここはキスしても良かったんだよね、とぶつぶつ呟き始め、もう物語の世界に入り始めている。
これから二人っきりの初めての夜が始まるというのに、凛が全く平常運転であることに山辺はけっこう落ち込んで来る。
よし、せっかくのチャンス。ここは先輩との距離をちょっとでも縮めないと、と山辺は思案した。
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