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episode・3 変化。
翌日。凛は自宅マンションでの生活に戻っていた為、そこから出勤した。日常に戻った訳である。凛はその日は早番で、書棚の整理をしていた。売れた本を補充し、夕方から閉店までの準備をする。それに集中していた時、声をかけられた。振り向くと、店長で凛の上司である岬正勝が立っている。
「春野君、もうあがれそうか?」
「あ、はい。この棚が終わったら大丈夫です」
「じゃ、終わったらちょっと事務室に寄ってくれ」
岬はそう言うと、凛と同じ売り場担当の同僚、佐々木絵里にも同じように声をかけて事務室へ去って行った。
絵里が神妙な顔をして凛の傍に来た。
「春野さん、手伝います」
「ああ、ありがとうございます。じゃあ、このドリルの棚の補充をお願いしてもいいですか?」
絵里は入社3年目の社員で25歳。年齢にしては地味で飾り気のない女性で生粋の本好きであらゆるジャンルに精通していて、岬をはじめ、皆からの信頼も厚く、仕事もそつなくこなす貴重な人材だった。
暫く二人で作業していた時、絵里がおもむろに言った。
「私、皆さんに秘密にしていたんですが、来月結婚するんです」
「そうなの?おめでとう~!」
「ありがとうございます」
「お相手は?」
「高校時代の同級生です」
「そうなの、良かったね、幸せになってね」
絵里はちょっとはにかんでありがとうございます、と言った。
「でも、全然気が付かなかった、彼氏いたなんて」
「…彼、関西で働いていて、ずっと遠距離で付き合ってたんですけど、彼がいつの間にかこっちに転職を決めちゃって。その流れで一緒に暮らそうってことになりました」
絵里は淡々と語るが、幸せな感情が目尻から滲み出ていて、凛は見ていて自分も嬉しくなってくる。
「結婚式もやるので、その時は先輩、ぜひ来てくださいますか?」
「うん、もちろん!」
二人で微笑み合い、作業を終わらせると連れ立って事務室へ行った。
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