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「……おなか、すいたなぁ」
ボクはとぼとぼと街を歩いていた。
お腹がぐぅ~と音を立てる。
それもそのはず。
ボクはここ10日くらい、ご飯──悪夢を食べていない。
理由は至って簡単だ。
呼んでくれる人がいないから。
え?夢の場所がわかるんじゃないのかって?
いやいや、そんなの分かるわけないよ。
聞いたことないかな?
「この夢をバクさんにあげます」って三回唱えると、バクが悪夢を食べに来てくれて、その夢を二度と見ないようになるっていう話。
ボクが出来るのは、その声を聞いて、その声の主の許へ行って、その人の夢を食べることだけ。
悪夢を検知する~みたいなそんな特殊能力、持ってない。
だから、皆の声がなければボクは悪夢を食べにいけないんだ。
だけど、最近は「夢喰いのバク」の話すら知らない人が多くなってきてしまっている。
もしその話を聞いたとしても、「迷信だ」と言って信じてもらえない。
そうすると、自然とボクを呼ぶ人が少なくなってくる。
皆が悪夢を見ていなから呼ばれないならその方がいいんだけど、どの時代になっても、悪夢を見る人がゼロになるわけがない。
ということは、ボクはただ単に呼ばれていないだけ、ということになる。
それは少しだけ寂しい。
……お腹も空くし。
ボクのお腹がまたぐぅ~きゅるる……と音を立てる。
うぅ……ご飯、食べたいなぁ。
そう思った時だった。
「おばあちゃん~。ぼく今日、怖い夢見たの~」
何処からともなくそんな男の子の声が聞こえてきた。
声がする方を見てみると、すぐそこの家の玄関先で四才くらいの男の子が祖母らしき女性にしがみついていた。
祖母らしき女性は男の子に視線を合わせ、優しい微笑みを浮かべながら
「あらあら。どんな夢だったの?おばあちゃんに教えてくれない?」
と聞いた。
「おばけがね、たくさん追いかけてきたの」
「あれまぁ、それは怖いねぇ」
「ぼく、怖くて……泣いちゃったの」
「そっかそっか。それじゃ、そんなりっくんにいいことを教えてあげようねぇ」
「いいこと?」
「りっくん」と呼ばれた男の子は首をちょこんと傾げた。
「そう。いいこと」
「なぁに?」
「りっくん、もうそんな夢、見たくないわよねぇ」
「うん。もうやだ」
「そんな時はね。『この夢をバクさんにあげます』って三回唱えてみなさい。するとね、バクさんがりっくんの夢を食べに来てくれるのよ」
「えっ!バクさんがぼくの夢を食べちゃうの!?」
「そうよ。だけどね、全部じゃないの。りっくんが嫌だなぁ、怖いなぁって思った夢だけ、食べていってくれるのよ」
「へぇ……優しいバクさんなんだね!」
二人はそんな会話をしながら家の中に入っていった。
ボクの話をしているなんて……何だか照れ臭いなぁ。
ボクは頭をポリポリと掻きながらその場を去った。
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