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「りっくん、だいじょうぶだからね。ボクがすぐにりっくんの夢をたべてあげるからね。ボクがたべれば、その夢をわすれられるからね」
ボクは届かないことを承知の上で震えているりっくんに声を掛けた。
早く安心させてあげたくて。
しかしその時、あり得ないことが起こった。
「……だぁれ?」
ボクの声に反応して、りっくんが顔を上げた。
「……えっ?」
「……え?」
──まさか。
「ボクのこと……みえてるの?」
「……しゃべるバク?」
……。
「えぇぇ!?」
「わぁぁ!?」
ボクが驚きの声を上げるのと同時に、りっくんも驚きの声を上げた。
「な、なんでみえてるの!?」
「わ、わかんない!」
しかもしっかりと会話も成り立っている。
初めての事だった。
ボクの姿が見えるだなんて……。
と、取り敢えずりっくんを安心させないと!
下手したらお巡りさん呼ばれちゃう!
ボクは連行される自分を思い浮かべた。
それは嫌だ。
その時のボクの頭の中には、他の人には見えないから捕まるわけがないというごく当たり前な考えは浮かばなかった。
それくらいビックリしていた。
「りっくん、ボクは夢喰いのバクだよ!りっくんの悪夢をたべにきたんだ!」
「夢喰いのバク……って、おばあちゃんがお話してくれた、あの?」
「そう!あの夢くいのバクだよ!」
ボクの自己紹介は効果覿面だった。
「おばあちゃーん!夢喰いのバクさんが来たよー!」
「わぁぁ!呼ばないで!呼ばないで!!」
……ある意味。
「何で?おばあちゃんにもバクさんを会わせたいよ」
「あのね、ふつうボクのすがたはひとにはみえないんだよ」
「え、そうなの?」
「そうだよ。りっくんがなぜボクをみれて、こうしておしゃべりができているのかわからないけど、でもおばあちゃんはきっとみえないから……」
「そっかあ……」
ボクは落ち込んでしまったりっくんをしっかりと見た。
可愛らしい顔立ちをした男の子だなぁ、と思った。
「で、バクさんは僕の夢、食べてくれるの?」
「うん!わるい夢だけね。りっくんのわるい夢、ボクにちょうだい」
ボクがそう言うと、りっくんは──頭をぶんぶんと振った。
「え、やなの?」
「うん、だって……」
ボクは、りっくんがボクの姿を見られる理由が分かった。
「怖い夢って、悪夢って言うんでしょ?悪夢って、悪い夢って意味だよね?悪いもの食べたら、お腹痛くなっちゃうよ」
「りっくん……」
りっくんは、ボクを真っ直ぐと見て言った。
「食べるなら、いい夢を食べて!その方がおいしいよ!」
りっくんはとても純粋で、とても優しい子だった。
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