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うん、パパだよ。
あっちウロウロこっちをウロウロと、ただ救急車の到着を待つだけの俺。
やがてサイレンの音が近づくと心がはやり、姿を現した車体に対し周りの目も気にせず大きく両手を振って招きよせる。
そして、到着した救急車から降りて来た救急隊員の前で、足踏みまでして部屋へと急がせた。
そんな俺に救急隊員は、顔色一つ変えず真摯な対応。手早く処置後、慣れた手つきで女の子を俺の部屋から運び出してくれた。
当然俺も救急隊員の後を追って、保護者として一緒に救急車へと向かう。
その時、俺は筋違いにも彼女に後のことを託して部屋のカギを渡していた。
何の声を掛ける余裕も無く。ただ、目を合わせただけで。
俺は彼女一人が残された部屋の中の静けさを、背後から感じていた。
女の子と俺を乗せた救急車は、あっという間に病院に到着。そして、流されるように診察室に入った。
診断結果は予想通りの熱射病。
お医者さんからは、応急処置の対応が良かったことは褒められたが、それ以前に予防処置が成ってないことをきつく咎められてしまい、俺はその反論を許されない状況に、唇を噛みしめるだけだった。
どういう経緯なのかは未だ分からないが、俺は一時的なのかもしれないが法的に父親である可能性が高かった。そんな自覚からなんだろうか?
俺は次第にお医者さんの言葉が痛く心に響いて行き、胸が苦しくなって行くのを感じた。
そして、看護師さんからのお父さんと呼ばれる言葉にも、少しの恥ずかしさの中に嬉しさも芽生え始めているのを感じていた。
もしかすると、俺はこの時既に父親になることを覚悟していたのかもしれない。
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