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「灯里さんも、いらっしゃいな」
居間で宿題に取りかかろうとしていた私を、珍しく祖母が客間に招く。
二人の話題の中心は、大抵が戦時中の苦労話で。「今の子供たちは、恵まれている」などと言われると、居心地の悪さを感じてしまう。
けれど、この日の祖母は、そんな坂田さんの言葉に軽く反論した。
「でもねぇ、タツさん。今の子は今の子で、大変なのよ。世の中が複雑になっちゃったから」
「へぇ、そうなのかい? 」と坂田さんに覗きこまれ、私は「ええ、まぁ……」と曖昧に返す。
「博識なだけでなく、若い子の気持ちも代弁できるなんてなぁ。さすがだねぇ、ハナエさん」
「嫌だ、ババアが知ったかぶりしちゃったわね」
『ハナエさん』と呼ばれた祖母は、心なしか頬を赤らめて照れ笑う。
客間の座卓には、普段は使うことなく仕舞われている『坂田さん専用灰皿』が、ど真ん中に鎮座していた。
わざわざ、彼のために選んで購入している祖母の姿を想像すると、可愛いやら微笑ましいやらで、自然と顔がニヤけてしまう。
「どうかしましたか、灯里さん?」
「いえ、お話が楽しくて……。あの、コーヒーのお代わりを入れてきます」
「あ、それなら緑茶にしてちょうだいな。戸棚にあるお煎餅も一緒に」
「はい」
━━ダメだ、おばあちゃんが乙女すぎる。
ジジイ・フレンド坂田さんと差し向かいでコーヒーを飲みながら語らう祖母の横顔が、私には少女のように見えたのだった。
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