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「えっ、何で?」
思わず、独り言が出た。
買い物をしていたほんの五分の間に、乗ってきた祖母の自転車が跡形もなく消えている。
豆腐一丁と財布を手に一瞬青ざめるも、捜し物はすぐに見つかった。慌てて止めたことが災いしたのか、自転車は側溝に倒れ落ちていたのだ。
路上へ持ち上げようとするも、古く重い鉄製の自転車は、容易に元の位置へと戻ってはくれない。振り返ると、さっきまで半分開いていた商店のシャッターも締め切られ、近くを通りかかる人影も見当たらなかった。
側溝に嵌まった自転車と格闘しているうちに大人たちの助言通り日は沈み、辺りは少しずつ暗くなり始める。
「どうしよう……」
涙目になりかけたその時、
「お前、何やってんの?」
背後から、聞き覚えのある声に呼びかけられた。
「何、遊んでんの?」
嫌な奴に見つかってしまった。
振り向く前に、声の主に気づく。
同い年の地元の男の子、『清斗』だ。
ハンドルを掴む手を一瞬緩めたが、問いかけを無視したまま、再び自転車を持ち上げることに専念する。
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