4.田舎少年・都会少女

6/6
前へ
/55ページ
次へ
 祖母の手前、ラジオ体操は欠かさず出席してはいるが、以来清斗とは一切口を利いてはいない。 ━━早くこの場を立ち去らないと。  焦れば焦るほど、タイヤは側溝から上手く抜けず。ただひたすら、動かない自転車のハンドルを握りしめて、俯いていた。 「どけよ」 「え?」 「いいから、どけ!」  涙と恥ずかしさで真っ赤な顔のまま振り向いた私の両手から、清斗は乱暴にハンドルを奪う。  目線一つ身長が低いにも関わらず、いとも簡単に自転車を(すく)い上げると、丁寧に進行方向へと向けて、路上に立たせてくれた。 「あっ、 ありが……」  こちらが「ありがとう」と言い切る前に清斗は自分の自転車に(また)がり、すでに漕ぎ出していた。  無神経で嫌な田舎モンには間違いないけれど。 ━━悪い奴ではない……のかもしれない。  振り返りもせず、颯爽と走り去る後ろ姿を見送りながら、そんなことを思ってみたりする。  明日の朝には、改めて清斗にお礼を言おう、と決めた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加