50人が本棚に入れています
本棚に追加
祖母の手前、ラジオ体操は欠かさず出席してはいるが、以来清斗とは一切口を利いてはいない。
━━早くこの場を立ち去らないと。
焦れば焦るほど、タイヤは側溝から上手く抜けず。ただひたすら、動かない自転車のハンドルを握りしめて、俯いていた。
「どけよ」
「え?」
「いいから、どけ!」
涙と恥ずかしさで真っ赤な顔のまま振り向いた私の両手から、清斗は乱暴にハンドルを奪う。
目線一つ身長が低いにも関わらず、いとも簡単に自転車を掬い上げると、丁寧に進行方向へと向けて、路上に立たせてくれた。
「あっ、 ありが……」
こちらが「ありがとう」と言い切る前に清斗は自分の自転車に跨がり、すでに漕ぎ出していた。
無神経で嫌な田舎モンには間違いないけれど。
━━悪い奴ではない……のかもしれない。
振り返りもせず、颯爽と走り去る後ろ姿を見送りながら、そんなことを思ってみたりする。
明日の朝には、改めて清斗にお礼を言おう、と決めた。
最初のコメントを投稿しよう!