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その日、私は祖母より先に入浴を終えていた。
「今日は髪を染めるから、灯里さんが先にお入りなさい」
「お風呂掃除は?」
「心配しなくても、私がしますよ」
昔ながらの強力な『染め粉』で白髪を染めている祖母は、汚れた浴槽を自らが洗うという理由で、私に一番風呂を勧めた上に風呂掃除の免除も言い渡した。
髪の毛というより、頭そのものを真っ黒に塗りたくった祖母が風呂場へ入っていくのを見届けると、私は一目散にテレビをつける。
入浴時間の関係で普段は見ることのないバラエティ番組にチャンネルを合わせると、フルーツ牛乳を飲みながら、いつもより早めの風呂上がりを楽しんでいた。
「あははっ、くだらない!」
祖母のいぬ間に何とやら。
大笑いしながら、テレビ画面に向かってツッコミを入れた、その時。
ドンッ、バタン!
風呂場のある方角から、ただごとではない物音が聞こえる。
「おばあちゃん?」
━━もしや、のぼせて倒れてしまった?
中の様子を伺おうと脱衣場の外に立ち、恐る恐る声をかけた瞬間。
ガラッ!
横開きの扉が、勢いよく開かれた。
「どっ……」
目の前には、落武者のように濡れ髪を垂らした祖母が、真っ裸のまま動じることなく仁王立ちしている。
「どうしたの?」と尋ねようにも、衝撃で口をパクパクさせている私に向かって、舞台役者のような滑舌のよさで訴えた。
「灯里さん、この人に電話を貸してあげてちょうだい」
「こ、この人?」
裸の落武者姿の祖母の背後に隠れるように、怯えた表情の若い女性が前屈みの姿勢で立ちすくんでいた。
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