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「おばあちゃん、その人、誰?」
女性の顔に、見覚えはない。
蒼白な頬と異様に紫色の唇を震わせ、彼女の周囲だけ震度3の地震がきているのかと思わせるほどに体全体を揺らしている。
「私も初対面だよ。それより早く、電話を……」
再び命じかけて、言い直す。
「ああ、その前に。洋服を貸してあげなさい。小柄な方だから、灯里さんのサイズでも間に合うでしょ」
ジロジロ見てはいけないと思いつつ、揺れ続ける彼女の着衣を注視する。乱れている上に泥だらけで、ところどころ破れていた。
寝室として使っている和室へ案内し、怯えた表情の異様な訪問者にフリーサイズのロングTシャツを手渡す。
「どうぞ」
「……」
無言で着替える彼女の膝頭でTシャツの裾は止まる。これならワンピースとして一枚着るだけで何とかなる、と思ったのは正解だった。
着替え終えた頃に和室と居間を繋ぐ廊下へと案内すると、祖母に指示された通りに備えてある電話を使うよう伝える。
彼女が目当ての誰かと通話している間に、風呂場で起こった顛末を祖母は淡々と語った。
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