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サァサァと勢いよく流れる水の音で目が覚めた。
「雨?」
そう頭の中で呟いた後に、反射的に「違う」と口に出し、誰に聞かせるでもなく言い直す。
「川だ……」
三日前から祖母の家で暮らしていることを、川の流れというBGMで改めて思い知る。
私は、灯里。小学六年生。
夏休みが終われば、十二歳になる。
お父さんは、飲み屋のママを愛人に。
お母さんは、パート先の店長の愛人に。
他人は私を「可哀想な子」と言うけれど。
親の関心が自分に薄いということは、それだけ自由に過ごせる時間が多く、幸いなことだと思っていた。それなのに……。
「やば、六時過ぎてる……」
跳ねるように布団から飛び起き、パジャマを脱ぎ捨てると、枕元に畳んでおいたTシャツとデニムパンツに速攻で着替える。その時間、五秒。
三つ折りにした敷布団と掛布団を勢いだけで重ね合わせ、押入れへと突っ込み、田舎の家屋独特の土間の台所へ駆けだした。
実の娘である母と折り合いが悪かったらしく、疎遠だったことから、十二の年を迎える夏まで顔も知らなかった祖母。
『おばあちゃんのところで過ごすの、いいわね。たくさん甘えてらっしゃい』
何も知らない担任の先生は、そう言って手放しで喜んでくれたけれど。
祖母は、想像以上にキレ者で、クセ者だった。
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