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結局、女性を襲った犯人は捕まらなかった。後日、改めて彼女の両親が菓子折り持参で、祖母と私の元へお礼を言いに訪れた。
*
その夜、事件当日には聞けなかったことを祖母に尋ねた。
「入浴の最中に突然知らない人から『助けて』って言われて、怖くなかったの?」
涼しい顔のまま、祖母は答える。
「そりゃ、怖かったよ。こっちは裸で無防備だし、もしかしたら被害者を装った犯罪者かもしれないじゃないか。招き入れたはいいが自分が襲われるんじゃないかって、ずっとドキドキしていたよ」
意外だった。
冷静で勇敢だと思っていた祖母が、実は不安に思いながら対応していたなんて。
そして、私に本音を漏らすなんて。
「おばあちゃんも、普通の人なんだね」
「当たり前じゃないか。私を何だと思ってるんだい?」
二人同時にお茶をすすり、微笑んだ。
目の前で熱い抱擁を交わしたカップルは、この先もずっと、仲良くしていくのだろうか。
まだ私には、そんな気持ちは理解できないけれど。
いつか、彼女のように……。
映画みたいなラブシーンの相手になるような人と、出会うことがあるのだろうか。
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