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「おはようございます!」
「おはようございます」
きっちりと着物を着付けた祖母は、すでに食卓について静かに味噌汁をすすっている。悠然とした動きに似合わず、その表情は険しい。
「灯里さん、六時起床の約束を忘れましたか?」
「忘れていません」
視線を逸らさずに答える。目を伏せてしまったら、私の負けだ。
「今は、何時ですか?」
「六時十五分です」
「ラジオ体操は、何時からですか?」
「六時三十分です」
祖母の尋問は続く。
「時間を逆算して、朝ごはんを食べる余裕はありますか?」
「あります!」
直立姿勢のまま答える。
土間の食卓椅子に座る小柄な祖母を見下ろす形だというのに、なぜか彼女の姿は大きく見える。
首から上を微動だにせず静かに箸を下ろすと、祖母は向かいの席に用意してあった手つかずの朝食膳を、ゆっくりと右手で指し示した。
「それでは、お上がりなさい」
サンダルを履き駆け下りると、即座に席に着く。祖母が作った朝食を十分で胃の中へ流し込んだ。少し冷えた味噌汁は、思いのほか美味しい。
「灯里さん」
「はい」
「ラジオ体操から帰ったら、涼しいうちに庭の草むしりですよ」
「はい……」
「おや、今のは蚊の鳴き声かしら」
「はい!」
「よろしい」
自分たちのことで精一杯な両親に見放された私を哀れに思って預かってくれた彼女は、果たして味方なのだろうか。
会って間もない祖母に対して、十二歳目前の私は、心を開けずにいた。
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