10.十二歳は無力

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 いつまでも続くように思えた祖母との生活は、夏の終わりと共にあっけなく幕を閉じようとしていた。 * 「お前、どれだけ自分が勝手なことを言っているのか、分かっているのかい?」  いつも冷静で淡々とした語り口の祖母が、受話器に向かって珍しく感情的に訴えている。音沙汰のなかった母から、唐突に私を戻せという連絡が入ったのだ。 「こっちの学校へ行かせる手続きだって、済ませたんじゃ……事情が変わった? とにかく帰り支度をさせろって? ちょっと、光代!?」  一緒になるはずだった恋人に捨てられて、消去法で父の元へ帰る口実に私を連れて戻ろう、という考えなのだろう。 「事情が変わった」としか主張しない母に、理由を聞き出そうと祖母は食い下がっていたけれど、これまでの経験から大方の予想はついた。  物心ついた頃から、同じようなことは何度かあった。腹は立つけれど、不思議と悲しくはない。
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