10.十二歳は無力

5/6
前へ
/55ページ
次へ
 別の日には、珍しく母が「本を買ってあげる」と買い物へと連れ出してくれた。  大型書店で少女小説を一冊購入し、滅多にない外食に心弾ませレストランに入店すると、窓際の席を陣取っている見知らぬ男性が片手を上げ、こちらに合図を送ってきた。 「待った?」 「いや、今来たところ。驚いたな、こんな大きなお子さんがいるんだ」 「ナリだけよ。まだ小学生だから」  誰? と聞くまでもなく、会話の内容で二人の関係が理解できた。  何でも好きな物を頼んでもいいよ、と言われたものの、母とその恋人の会話を聞きながら食べ物が喉を通るはずもなく。  買ってもらったばかりのハードカバー本で顔を隠しながら、ひたすらソーダ水を飲み続けた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加