10.十二歳は無力

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*** 「親を捨てるつもりで、ここに来たんだけど……」  自分が一番大事。  それは、誰しもがそう。  思いやったり思いやられたりしながら、他者との関係を築いていく。  それが上手にできないまま、『折り合いをつける』ことが苦手なまま、年を重ねてしまった。それが、私の両親。 「でも、見捨てないでいようかなって。大人になるって、『折り合いをつける』って、大変なことだって分かったから」 ━━人は、何歳から大人になるのだろう? 『四十歳くらいになったら、大人になれるんじゃね?』  いつか、清斗とそう答えを出したけれど。 唐突に大人としての自覚が芽生える瞬間なんて、誰にも持てないと思う。 「お前……すげぇ色々、考えてんだな」 「うん、まぁ、おばあちゃんと暮らすようになってからなんだけど……」 「考えすぎるとハゲるぞ」 「えぇ!?」  とっさに私は、両手でつむじを押さえる。 「大丈夫だよ。ハゲても仲良くしてやるから」  清斗と出会えて、よかった。  例え離れて暮らしても、祖母や清斗とは、この先もずっと繋がっていられる。  そう確信した私は帰宅後、祖母に決断を伝えた。 「一度、両親の元へ帰ります」 「そうですか」  よほど私は、不安そうな顔をしていたのだろうか。それとも、長く一緒にいると、甘えてしまいそうな自分の心の内を見透かされてしまったのだろうか。 「自分の決めたことに、自信を持ちなさい。例えそれが間違った選択だったとしても、生きてる限りは、いくらでも修正できますよ」  読みかけのハードカバー本の表紙を静かに閉じながら、祖母は穏やかに笑った。 「十二歳のあなたは法律的には無力だけど、可能性は無限大なのよ」
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