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八月三十日。
母が私を連れ戻しにくる前日の夜。
祖母と私は、初めて同じ部屋に布団を並べた。
「修学旅行みたい」
ふと思いついたことを口にすると、寝巻き浴衣の帯を締め直しながら、祖母は提案した。
「枕投げでもしますか?」
「えぇっ!?」と驚き仰け反る私を尻目に、そば殻入り枕を抱えた祖母は、冗談とも本気とも取れる真顔で、その固さを確かめる。
……かと思うと、あっさりと枕を布団の上に放り投げた。
「首を痛めるわね。やっぱり、やめましょう」
「あはははっ!」
思わず、大声を上げて笑ってしまった。
口元を押さえる私に、「構やしないよ」と祖母は山側の方角にある窓を開け、よく通る声で言った。
「聞いているのは、野猿か山猪くらいですよ」
そういえば、風呂場の窓から見知らぬ女性が助けを求めて、侵入してきたこともあった。
川の流れに呼び声が遮られ、半径百メートル以内に隣家と呼べる家屋のない集落で、祖母は独り暮らしを続けるのだ。
ふと、罪悪感に囚われそうになる私を察したかのように、 くるりと祖母は振り返る。足元に落とした枕を拾い上げ、凛として言った。
「大丈夫ですよ。戦争を経験したババアは、肝が据わってますからね」
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