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偏屈者に見える祖母だけれど、週一で訪ねてくるボーイフレンドがいる。いや、おじいちゃんだから、ジジイ・フレンドか。
祖母のジジイ・フレンド、坂田辰吉さん。元特攻隊員で野菜や花を育てることを趣味とし、息子夫婦と穏やかに暮らしている老紳士だ。
泥の付いた作業服に長靴姿でバイクに乗ってやってくるのだけれど、さすが元特攻隊員。バイクを運転している時も、常に物差しを入れているかのように背筋がピンと伸びていた。
「ねえさん。今日は仕事、休みかい?」
初めて坂田さんと対面した日、以前からの知り合いのように親しげに話しかけられ、戸惑った。
「いやだ、タツさん。この子は孫娘。まだ小学生だよ」
「ほぇ~、ミッちゃんが帰ってきたのかと思ったよ。美人さんだねぇ、そっくりだ!」
ミッちゃん、というのは祖母の娘、つまりは私の実母のことだ。彼女の名前は『光代』という。坂田さんは、若い頃に見た母の顔を覚えていて、私を母本人と勘違いしたと言うのだ。
━━確かに、大人っぽく見られる方ではあるけれど、おばあちゃんの娘に間違われるなんて……。
憮然とした表情をしていると、それ以上に不機嫌な様子で祖母は言い放った。
「あの子は、戻ってきやしませんよ。親の躾が悪かったからね」
━━『親の躾が悪い』って? 親って、自分のことでしょ? おばあちゃん。
その時は、尋ねてはいけないことのような気がして、言葉をぐっと飲み込んだ。
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