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ズボンのポケットに納まりきらず、宙づりになったいくつものキーホルダーが、ペダルを漕ぐと揺れる。 「お揃い」はあみが固執しているもうひとつのことで、ふたりでどこかへ出かけるたび、それらの品は増えていった。 キーホルダーだけではない。 スマートフォンのケースやぬいぐるみなど、開封されないまま自宅に眠っているものが、まだたくさんある。 ペダルがずっしりと重くなると、キーホルダーのことなど気にしていられなくなった。 線路沿いの道を10分ほど走ると現れる、およそ30mの急坂は、学校からタロのマンションまでの15分の道のりで、一番の難所である。 サドルから腰を上げ、今にも止まりそうなタイヤに体重をかけた。 結局、20点の予定であったアイスクリームの画像は、 「当初はカクハンで使用する予定だったものが、急遽キリヌキになった」 という理由でその5倍にも膨れ上がり、三月のバイト期間は今週いっぱいまで延長となった。 午後4時から夜の8時まで、アイスの丸いシルエットを延々となぞり続けるという、単調で変化のない作業。 初日こそ饒舌だった三月だが、2日目の夜には早くも辟易し、カクハンってなに?と聞く気力さえも削がれてしまった。 今日は、その3日目である。 今日も一緒に帰れないの? またタロ。ふーん、そう。わかった。 登り終え、足をついて呼吸を整えていると、つかの間忘れかけていた憂鬱がせり上がってきた。 つい30分前、自転車置き場の前で出くわしたあみは、ひどく機嫌が悪かった。 今週はまだ一度も一緒に帰っていないから、本格的にへそを曲げるのも、時間の問題だろう。 なにかお揃いのものをプレゼントでもして機嫌をとろうか。 そんな選択肢が頭をかすめたが、それも一瞬にしてしぼんでしまった。 月初にテーマパークに遊びに行ったしわ寄せで金欠だし、なにもそこまでして―――― でも、せめてアルバイトが自由にできたらいいのに。 同時に、昨晩の父との確執を思い出し、ふつふつと怒りが湧いてきた。 フェンスを跨いだすぐ横を、電車が通過する。 その轟音のなかを駆け抜けるように、ペダルに足をかけた。
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