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冗長、執着
タピオカ人気が沸騰していた時分、初木と安西は試しにと話題の店へとやって来ていた。
が、二人はわかっていなかった。話題の店ともなると、ありえないほど行列することを。
しかし、せっかく来たのだからと、二人は渋々、その行列に並んでいた。
「長い……長すぎる。一体いつまで待てばいいんだ……」
「気が早いわよ安西、こういう時間も楽しく使えばいいのよ。というわけで、退屈しのぎに冗長すぎる可笑しな話をお届けするわ」
「おお、そいつは助かる」
順番待ちにダレる安西に、前向きな提案をする初木。渡りに船な安西。
「ではまず、ピカソについて。ピカソの本名は、パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソといって、ピカソ本人も名前を覚え切れなかったらしいわ」
「なっっっがっっっ! 試験とか最初の名前欄で設問1つ分くらいの時間使いそう!」
「次に、長すぎるクラシック音楽。エリック・サティ作曲の『いら立ち』という曲は、全て演奏すると実に17時間も掛かる上、同じフレーズだけを延々と840回も繰り返す曲なのよ」
「聴くのイヤだわ! ある種いら立ちを見事に表現できてるのかもしれないけどさ!」
「最後に、世界最大の機械は、全周27キロメートルもあるのよ。スイス・フランス間の粒子加速器よ」
「そんなに長い機械が!?」
そうして楽しく話していたが、行列はまだ続く。
「しかし、タピオカミルクティ1つにここまで行列するもんかねぇ……」
「人間が何に執着するかなんて、わからないものよ安西」
思わずぼやく安西の言葉を聞いて、初木、今度は執着話に移る。
「明治十六年当時、東大は十月に学位授与式を行っていたのだけれど、その年の式が午後の早い時間に設定されると、『それじゃ式の後に酒が呑めない』という理由でボイコットが行われたのよ」
「そんな理由で!? そんなにこだわる!? おい東大生!」
「騒ぎを起こした145人はただちに退学処分に」
「せっかく卒業まであと一歩だったのに!」
「でもその中には、後に総理になった平沼騏一郎も含まれていたのよ」
「でもその中から総理が生まれてる! ある種すげえ! やっぱ東大すげえ!」
「まだあるわ。六百年代の天智天皇と天武天皇は異父兄弟だったのだけれど、天智は天武に『ウチの娘二人お前に嫁がせるから、お前の嫁をくれ』と持ちかけていて、天武も了承しているのよ」
「人間関係グチャグチャ! ムチャクチャだなそれはもう!」
「江戸時代には『今おならをしたのは私です』と身代わりになるお仕事もあったみたいだしね。人が何にこだわるかなんてわからないものよ」
「気にしぃだな~江戸の人。なるほど~人のことはわからんか~」
その後、やっと買えたタピオカミルクティーを口にした二人は、翌週もまた、その行列に並んでいたという……。
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