一休さん、野口英世

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一休さん、野口英世

 ある日の放課後の帰り道、初木と安西は丸坊主の小学生とすれ違った。 「今の丸坊主の子、めっちゃ可愛かったな。一休さんみたい」  何気なく口にした安西のその言葉が、初木のうんちく魂に火を付けた。 「安西、その一休さんの実像なのだけれど、実は彼、お坊さんなのに自身の性交の様子を赤裸々に描写したポルノ作家なのよ。ゴリッゴリの破戒僧よ」 「え――っ!? キュートな子供のイメージしかない! 大人の無茶振りをとんちでかわすスマートな子のイメージしかないのにそんなドロドロ!」  安西の驚く反応に気を良くした初木、なお自らの引き出しをどんどん開けていく。 「無茶振りといえば、夏目漱石は教師をしていた時、片腕の学生に『私も無い知恵を出して講義をしているのだから君も腕を出したらどうかね』などとわけのわからないことを言ったらしいわよ」 「ムチャぶりだなっ! それはホントに無茶苦茶なムチャぶりだなっ!」 「足利六代将軍義教って、四人の候補の中からクジで選ばれたらしいわよ」 「クジで将軍が!?」 「恐怖政治を行って殺されたらしいわ」 「ほらクジでとかムチャぶりするから~」 「将棋の『歩』のコマ裏の『と』って『金』の字の崩し字らしいわよ」 「無理がある! そう読めというのはムチャぶりだわ~」 「スルメって、スミ吐く群れの略らしいわよ」 「無理がある! 『ル』と『メ』がどこからかやって来ちゃってる!」 「ちやほやって、蝶よ花よの略らしいわよ」 「無理がある! やっぱり『ち』しか原型がない!」  この後も、興の乗った初木の話に数時間付き合えというムチャぶりを強いられる安西なのであった。  ある日のこと、試験で一科目赤点を取ってしまい、落ち込んで机に突っ伏す安西。 「ああ、赤点とは……なんてアホなんだオレは」  そんな安西を励ますべく、初木は言った。 「大丈夫よ安西。アホだからって出世できないわけでも偉人になれないわけでもないわ。一科目赤点なくらい、もっとアホな偉人などいくらでもいるもの」  耳寄りな話を聞き、頭を上げる安西。 「へー、そうなの?」 「ええ、たとえばピタゴラス。彼はピタゴラス教団に反感を持った人々に襲われた時、逃げ切れそうだったのに『豆にも魂があるんだよ? 踏めないよ?』などと不可解なことを言って豆畑の前で立ち止まり殺されてしまったのよ」 「アホだなっ! 良い人そうだけどアホだなっ!」 「他にも、フランス革命にも影響を与えた思想家ルソー。彼はマゾでキモかったから彼女に捨てられたことがある上、露出狂であり性犯罪で逮捕されたことがあるのよ」 「アホだなっ! そんな人の思想の影響受けて大丈夫だったのか革命!」 「それから、古代ローマの独裁者カエサル。彼は国家の議員の妻を、実に全体の三分の一も寝取っていたらしいわ。恩人の妻や、『ブルータスお前もか!』で知られる、後に彼を殺すブルータスの母親までね」 「アホだなっ! それ知るとブルータスに殺されてるのアホだなっ! セリフがいっそうアホだなっ! そりゃみんなに嫌われるわ」 「あとは、千円札の肖像にもなった野口英世。彼は上京すると母や周囲の者に学費を援助されていたのに、それを酒と商売女にすぐ使い果たし、プラス友人達に借金してなお飲んだくれていた。  さらに、留学しようと考え婚約者の父に資金を出してもらうも遊郭でそれを使い果たし、恩師に高利貸しで借金させて新たな留学費用と婚約者の父への返済金を捻出させた。そして金目当てだったため婚約も破棄。結婚サギである」 「アホだなっ! そんな奴をお札の肖像にしてるからダメなんだよ日本の経済!」  「まぁ、というわけでけしてアホでも偉人になれないわけではないのよ」  が、どうにも釈然としない安西。   「でも、そいつらもオレの百倍は勉強できるんだろうな」 「それはもちろんそうでしょう」 「今、その話をしてるんだよ!」  まだまだ人類の未来は、暗い――――
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