きょうふのてがみ

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『…よしっ、これでおけー!』  ポストに紙切れを放り込んで、やりきったかのような顔を見せるハル。 「今投函したのは?」 『悪いことしてる霊の方を懲らしめる、所謂警察宛です』 「へえ。あの世って、意外とインフラ整ってるのね」 『少なくとも三、四日くらいで使いが来ると思いますよ。お盆シーズンと、今のお彼岸~ハロウィン間は繁忙期らしいですね』 「ああ、あの世とこの世の境目がゆるゆるになるんだっけ?」  そんなことを話ながら、俺も一報実家に送っておく。うまくいけば欲しいブツが一週間以内には届く筈だ。  因みに件の手紙は、その後わざわざ学校近くのお寺にて無事お焚き上げされ、灰一つ残さず供養された。南無。  ひとまず綺麗な身になって、明日から規定の日まで対策を講じる…と方針が決まった。  次の日、胸の支えが取れた僕は晴れやかな心持ちで、いつものように下駄箱を開く。 ──刹那、紙の津波が襲い来る。日直で早く登校しなければ、確実に周囲の関心をかっさらう光景だ。  下駄箱にギチギチに詰められた、茶封筒の山。ここは郵便局かと錯覚するような、大量の手紙の宛先はすべて一人に向けられていた。 …僕は一度深呼吸する。思考をクールに保って、今やるべきことを精査する。思考、思案、結論。その間、三秒も掛からなかった。  一旦上履きに履き替えて、足早に教室に移動する。そこでごみ袋を拝借し、すぐに戻る。  そして玄関口に築かれた紙の山を残らず突っ込んで、そのまま焼却炉へ向かう。そして、ごみ袋を綺麗なフォームで放り込む。 「ふう、いい仕事した」  額を拭い、達成感のある笑みを太陽に向けて、意気揚々と教室へ凱旋する。 『危ない!!』  背後からの大声に心臓が跳ね、足が止まる。一体どこのどいつだ、と振り向くと、見覚えのありすぎる、地に足着かない長い黒髪の少女がそこに居た。 「おま、学校まで──」 ──その先を言おうとした時、後頭部を何かが猛スピードで掠める。そう思った次の瞬間には、また心臓を驚かせる、何かが砕けるような音が届けられる。  恐る恐る首を徐に正面へ向けると、硬式野球の球が廊下の窓ガラスを粉砕していた。  もし、自分があと一歩前に踏み出していれば、こめかみにボールが直撃していた。想像しただけで冷や汗が出てくる。  下手すれば大事になっていた。そんな不運が偶然起きた、とは今の僕には考えられない。 「…すまん、助かった」 『でへへ、ありがとうございます~』 …社交辞令に本気で照れるハルを無視して、犯人に間違われないようその場を立ち去りつつ、先程の確認をする。 「…今の、もしかするともしかします?」 『…ふぁい。くっしゃいです』 …鼻を摘まみながらそう言うハルの言葉は間違いなく、約束日まで何かと危険に見舞われた。  ざっと羅列するだけで、居眠りしていた奴目掛けて飛んできたチョークが逸れて被弾したり、体育のサッカーで何故か執拗なラフプレイを食らうなど、保健室の世話になる目に遭いまくった。  しまいには家庭科の授業中、ガスが過剰噴出しコンロの火で毛先が焦げたり、事ある事に包丁が身体を掠めるなど、散々であった。  どれも酷い怪我してもおかしくないが、ハルが憑きっきりだった為に致命傷は避けられた。…悔しいけど、事が済んだら飯でも奢ってやろう。
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