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いつものように図書室の扉を開けいつものように右端を見た。しかし、彼女の姿はそこになくただ彼女の鞄だけが置かれていた。
十月「トイレかな…」
そう思い、返却口から本を取り出し元の棚に戻そうとした時、本棚を死角とし隠れるかのように彼女が横たわっていた。
不思議と悲鳴は出てこなかった、彼女は腕から大量の血を流し本棚には血飛沫が飛び散っていた。教師や警察、救急を呼ぼうという選択肢も私には毛頭無かった。午後5時頃の夕焼けが逆光となり本棚に飛び散っていた血と床に流れていく血、そして彼女自身の悲惨な姿が照されて重なり一輪の綺麗な花のように見えた。
そこに恐怖はなく訳も分からず気分が昂って頬が火照っていくのが分かった、今思えばその正体は人生で初めて得た性的興奮なのかも知れない。脳内麻薬までもが分泌されこれ以上ない快楽が私を襲った。堪えきれず欲望のままに一線を越えてしまおうと思ったその時、彼女…雅庵が目を開けた。
十月「っ!!」
突然の事で驚き、乱れた格好のまま腰をぬかす
雅庵「はぁ…死ねないか…」
十月「………うぇっ!?ど…どどどどどどどどうして!?」
雅庵「とりあえず落ち着こ、何か服乱れてるし」
十月「そ…そうだよね」
慌てて緩めたネクタイを結び直し裾をスカートの中に入れる
雅庵「…私さ自殺出来ない体質なんだ」
十月「………ゾンビ?」
雅庵「それは語弊がある」
十月「えっと…とりあえず…なんだその…生きてたとしても自殺なんかしちゃダメだよ!!」
雅庵「…どうして?」
十月「えっ…」
雅庵「自殺してはいけない理由は?」
十月「…カンボジアとかアフガニスタンの人達は生きたくても生きられないんだよ!」
雅庵「…それと同じようにさ、水不足で苦しんでる国はいっぱいあるよね?」
十月「…うん」
雅庵「十月がプールに行ったとする…こんな贅沢に水使ってさ、恵まれない人達に申し訳ないって思う?」
十月「…思わない」
雅庵「そういう事だよ、生きたくても生きられない人達の為に申し訳ないから生きようだなんて思わない、私は私の世界で生きてて限界を感じて逃げたくなったから自殺しただけ」
十月「でもさ…死ねないって事は逃げられないって事だよね?…」
雅庵「…じゃあ私は逃げちゃダメなの?」
十月「そういう訳じゃ…」
雅庵「いいよいいよ、分かってもらおうなんて思っちゃいないし…」
スカートやカーディガンに付いた埃を払い歩きだす
十月「その…ごめんね…」
雅庵「ううん…」
十月「あのさ…さっきのはなんで自殺したの…?」
雅庵「……最後の家族が金だけ残して死んだ…最後まで看とれたんだけど……やっぱダメだね、耐えらんなかった」
机の上に置かれた鞄を持ち肩に掛ける
十月「……」
雅庵「…また気の休める所探さなきゃ」
寂しそうに笑いながら去っていく
最初は雅庵と遊びたかっただけだった。
元気付けたかった。
でも、雅庵を驚かせたかったからあえて自分である事を隠して出雲という名義でアカウントを作り雅庵に接触した。
雅庵の周りに仲間が出来てから私の目的は雅庵の居場所を奪う事になっていた、雅庵をこんな奴らに渡したくない…メンバーの雅庵に対する苦言を彼女に密告し、リアルでは雅庵の家に幾度となく訪問した。そうすれば雅庵は私を嫌いにならない、雅庵のそばに寄り添う事が出来る…だから……
でも…それで雅庵は幸せなのかな
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