545人が本棚に入れています
本棚に追加
少しの間、沈黙が流れた。
男子三人、女子五人。皆、小学校の通知表の成績はいい。だけど、他の決定打がない。
スポーツの大会だとか、習い事のコンクールだとか、先生の特徴的なコメントだとかがなくて、誰がAランク確実かなんて全然わからない。
「確か、謙太は1年の時から部屋変わらないよな?」
健司が静かに言った。
「はい、ずっと同じ部屋です」
「ちょうど帰ってきてることだし、謙太に四階に移ってもらうのはどうだ? 急で悪いけど、部屋は広くなるだろ?」
「確かに!」
「それいいですね!」
思わぬ名案に、咲希と慧の声も弾む。だけど清次郎が待ったをかけた。
「別にそこまでしなくていいだろ! Aランクになりそうな1年が入ればいい!」
「じゃあ、どの子がいいと思うの?」
「ほら、この赤沢とか」
「なれなかったらどうするの?」
押し黙る清次郎に、亜実は一気に畳み掛ける。
「ランクが決まる前にこんなに勧誘して……もしCランク以下になったらどうするつもりなの?」
「ちゃんと成績を見て勧誘してる。いい生徒は早めに声をかけないと、他にとられるだろ」
「ランクは勉強だけで決まるんじゃないでしょう? 小学校によって、通知表のつけ方も違うし」
「わかってるよ。それでも大丈夫だと思って勧誘してるんだ。口を挟まないでくれ!」
「ちょっと!」
清次郎はそう言うと、荒々しく席を立った。プロフィールの用紙をまとめ、パソコンを持つと、そのまま食堂を出て行ってしまう。
「ごめんなさいね」
清次郎の姿が消えると、亜実は申し訳なさそうに言った。
「そんな! 亜実先輩が謝る事じゃ!」
「私が副寮長だし、同じ学年で長い付き合いだもの。昔はこんな感じじゃなかったのに、ここ数年、意固地になってるの」
「確かに1、2年の時はよく話もしてくれて、俺もすごく世話になったんだよな」
健司も頷く。
「これ以上暴走しないといいけど……」
その懸念は、翌日現実のものとなった。
最初のコメントを投稿しよう!