十、運命の日

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「あ、えっと……」  隠すつもりはなかったけれど、まさか慧の方から言うなんて。思ってもなかった事態に、うまく言葉が出てこない。 「いつからだ?」 「何時間か前……二人で、トンネル歩いてる時」  消え入るような声で答えると、康介はまた小さく笑った。 「慧も律儀だな」 「うん……」 「お前も慧も中途半端な気持ちで付き合ったりしないだろ」 「うん」 「良かったな」 「……うん」  どこか嬉しそうな康介に、喜んでもらえた嬉しさ以上の気恥ずかしさが押し寄せる。鏡なんて見なくても、顔が真っ赤な事は想像できた。  でも、康介は落ち着くまで待ってなんてくれない。 「由羅にも報告しろよ? 心配してるから」  また衝撃的な事を言ってのけた。 「由羅⁉︎ 由羅に会えるの?」 「今こっち向かってる。夜には着くだろ」 「連絡とってるの……?」  学園にいた時は、見かけてもお互いに声もかけなかったのに。恐る恐る尋ねれば、「ああ」と短い返事が返ってきた。 「詳しくは由羅に聞け。だけどな、この家に来て飯も食うし泊まっていく事もある。安心しろ」  康介の表情は柔らかい。それだけで、学園にいた頃とは全然違う関係なのが伝わってくる。自然と顔が綻んでくる。 「どうせ時間はある」 「どういう……?」  咲希の問いかけに康介が答える事はなかった。代わりにリモコンを手に取り、ベッドの向こうに置かれたテレビを点ける。  映ったのは。 【どうか私達の大事な後輩を、家族を返してください!】 「姫っ⁉︎」  すごい数のフラッシュライトを浴びながら涙する姫の姿だった。
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