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「え、どういう事⁉︎ 何で姫がテレビに映ってるの?」
無言でリモコンを渡されて他のチャンネルにも替えてみるけれど、どのチャンネルにも姫・姫・姫。たまに園香や健司の姿も一緒に映る番組もあるけれど、どの番組も前面に姫を映してる。
ハラハラと涙を零しながらマスコミに訴えかける姿は、元の容姿も相まってまるで映画か何か別世界で起きてる事みたいだ。
一瞬で自分の涙が引っ込んだ。
そこに、下の階から柚子の大きな声が響いた。
「ご飯できたよー!」
上の階からも「はーい」なんて元気な声が聞こえてくる。
「行くぞ」
康介はそう言うと、さっさと立ち上がった。
「姫は⁉︎ 見なくていいの⁉︎」
「どうせ下でも点けてるだろ」
「ちょっと待ってよ!」
そのまま部屋を出ていく康介に、慌てて着いていく。
リビングに戻ると、康介の言う通り大画面のテレビいっぱいに姫の姿が映し出されていた。
「あ、咲希起きた? おはよー!」
「咲希も慧も昨日の昼から食ってないんだろ? こっち来い、たくさん食えよ!」
長いテーブルがいくつも置かれ、その上には鍋に入ったカレーやローストビーフ、ポテトサラダにベーコンとチーズのパイなんかが所狭しと並んでる。
在校生も卒業生も関係なく、思い思いに座ってる。皆が笑ってる。
咲希は戸惑いながらも柚子と蓮のテーブルに座った。隣には慧。そして空いていた反対側に康介も無言で腰を下ろして、まるで昔の食堂の光景みたいだ。
「おはようございます、あの、姫達は何して?」
咲希が尋ねると、柚子はまるで悪戯が成功した時のように笑った。
「んー? 先手必勝悲劇のヒロイン攻撃ー!」
「え?」
予想だにしていなかった言葉に、思わず聞き返す。すると、他のテーブルからも笑いが漏れた。
「普通驚くよなー!」
「でも本当にそうなんだって!」
「え⁉︎」
「ほら、もうとっくにお前らの脱走はバレてるし、そうなれば居場所がバレて力づくで連れ戻されるのも時間の問題だろ? 亜実の事だって有耶無耶にされかねない。その前に大々的に報道してもらって世論を味方につけちまおうってわけ」
楽しそうに説明してくれたのは、海里と共に下りてきた雄貴だ。二人はそのまま柚子と蓮の隣に腰掛ける。二人共笑顔は変わらない。後輩想いで、優しくて、楽しい事が大好きなのも昔のままだ。
だけど、何かが違う。前なら、もっと飛びつくような勢いで駆けて来てくれたのに。
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