十、運命の日

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 ーーそういえば。 「あの、海里先輩?」  園香先輩も他の先輩達も皆海里先輩を気遣ってた……。 「ん?」 「もしかして……?」 「あ、気づいた? アイムゴナビーアマーム!」  I’m gonna be a mom!  ママになります!  その瞬間。リビングは歓声に包まれた。 「えっ! おめでとうございます!」 「ありがとう! ほんとは亜実も帰ってきてから発表しようと思ってたんだけどね!」 「いつ産まれるんですか⁉︎」 「いつ結婚したんですか!」 「え、雄貴先輩とですか⁉︎ 付き合ってなかったですよね⁉︎」 「男の子ですか⁉︎ 女の子ですか⁉︎」 「まだ安定期に入ったばかりだからわかんなーい! そ、雄貴と結局結婚しちゃいましたー!」  そう言ってかざされた二人の手には、お揃いの銀色の指輪。リビング中の至る所から声がかかる。  そして、おめでたい事は続く。 「園香先輩からメール! 作戦成功! 話し合いの場を設けるから記者会見を止めるようにって政府の役人が飛んできたって! 先に亜実を解放しなければ応じないって言ったら応じたって! 明日の朝には連れてくるって!」  蓮が叫んだ瞬間、割れんばかりの歓声が沸き上がった。 「やった!」 「本当に良かった! 絶対健司先輩泣いてるよね」 「良かった、亜実先輩!」 「流石姫っ!」 「亜実、本当に頑張ったな!」 「良かったっ……」  嬉しくて嬉しくて嬉しくて。咲希も全身から力が抜けていくのを感じた。 「さ、皆ご飯食べちゃお! 亜実は皆が沈んでる事なんて望んでないからね! 亜実に心配かけないように、しっかり食べて元気に出迎えよ!」 「はい!」  柚子の言葉に、元気な返事が何重にも重なる。  さっきまで空腹なんて全く感じなかったのに急にお腹も空いてきて、自然と大皿に手が伸びた。     「ちなみに蓮先輩、姫のあれって嘘泣きなんですか?」  皿いっぱいによそわれたカレーを掻き込みながら慧が尋ねた。慧の表情も憑物が落ちたかのように晴れ晴れとしてる。  蓮はそれに負けない爽やかな笑みで頷いた。 「すごいよなー」 「え、あれ嘘泣きなんですか⁉︎」  咲希が驚くと、今度は柚子が楽しそうに笑った。 「ほんとほんとー! 悲劇のヒロインが姫で、発案が和葉先輩。台本が園香先輩で、監督と送迎が正義先輩、メイクアンド衣装が海里先輩でイケメンアンド同情枠が健司!」 「揉み消されないためには世間の関心と同情を集めるのが一番、姫みたいな浮世離れした美人が泣いたら一発だって和葉先輩が言い出したんだ。姫もノリノリでさ。おかげでほら、ネット上ですごい勢いで広まってるぞ!」
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