544人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
「いや、ほら。お互いまずい時は知らせられるように合図を送り合ってたの」
「こうやって指二本で二回叩くのがまずい、四本が大丈夫ってな」
視線が集まる中、慧は実際に机を小さく叩いてみせた。表立って話が出来なかった半年の間に何度も送り合ったサインだ。もう慣れ親しんだもの。
「タブレットは?」
「毎晩ビデオ電話して、報告しあったりつけっぱなしで勉強したりしてただけだよ?」
「携帯だと調べられる可能性あるから使えなかったんだよ」
尋ねる博にそう答えると。
「ちょっとー! いつの間に!」
「おーっ!」
「二人の成長がお兄ちゃんは複雑だぞー!」
一気に歓声があがった。盛り上がったのは卒業生達だ。
「聞いてない! 聞いてないよ! 報告してよ!」
美玖が叫び。
「いつから⁉︎ いつからなの⁉︎」
柚子が飛び上がり。
「咲希が急に綺麗になったのもそのせいっ⁉︎ あー! 何で私は卒業しちゃったの!」
海里は嘆き。
「やっぱりそういう事か!」
蓮は訳知り顔で何度も頷く。
あまりの盛り上がり様に、こっちがついていけない。
「え、何がですか……?」
恐る恐る尋ねると、海里から不思議そうな表情が返ってきた。
「だって咲希と慧、付き合ってるんでしょ?」
「えーっ!」
今度は在校生組から驚きの声があがった。
「え、だって付き合ってもない男女が毎日ビデオ電話する⁉︎ 毎日だよ⁉︎」
「しないしない! しかも勉強してたって事は数分とかじゃないわけでしょ⁉︎ 手で合図を送り合うなんてのもねー!」
「そういえば……」
「確かに! 女同士なら寝るまで一緒にいたりするけど、お風呂上がった後は男子とは会わないなあ」
美玖と萌絵が食い気味に言うと、佳那と京子は納得したらしい。期待に満ちた目がこちらに向く。
「え、でもそんなの聞いてないし素振りもなかったよ⁉︎」
「そんなわけないって。咲希がそういうの隠しておけるわけないだろ」
「そうだよね!」
謙太と博は二人で自己完結したらしく、大変だなとでも言わんばかりの苦笑を浮かべた。
他にも「慧だぞ?」「咲希が恋したら絶対慌てふためくから周りが気付くでしょ?」なんて懐疑的な声や、「慧が付き合えるとしたら咲希だけでしょ?」「いつからだろ? 慧が寮を出た時には付き合ってたって事だよね?」なんて声まであがる始末。
ーーどうしよう。
完全にタイミングを失った。
隣の慧も固まってる。
その時だ。
「二人は付き合ってなんてませんよ! 憶測で言わないでください!」
哲平が勢い良く立ち上がって叫んだ。
それと同時に隣の椅子も動く。
「哲平、違う。結坂と付き合う事になりました! ただ、皆さんの予想と違って今日の深夜からですけど!」
その瞬間。
「お、お赤飯ーっ!」
柚子の今日一番の絶叫が響き渡った。
最初のコメントを投稿しよう!