十、運命の日

34/42

544人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
「いや、ほら。お互いまずい時は知らせられるように合図を送り合ってたの」 「こうやって指二本で二回叩くのがまずい、四本が大丈夫ってな」  視線が集まる中、慧は実際に机を小さく叩いてみせた。表立って話が出来なかった半年の間に何度も送り合ったサインだ。もう慣れ親しんだもの。 「タブレットは?」 「毎晩ビデオ電話して、報告しあったりつけっぱなしで勉強したりしてただけだよ?」 「携帯だと調べられる可能性あるから使えなかったんだよ」  尋ねる博にそう答えると。 「ちょっとー! いつの間に!」 「おーっ!」 「二人の成長がお兄ちゃんは複雑だぞー!」  一気に歓声があがった。盛り上がったのは卒業生達だ。 「聞いてない! 聞いてないよ! 報告してよ!」  美玖が叫び。 「いつから⁉︎ いつからなの⁉︎」  柚子が飛び上がり。 「咲希が急に綺麗になったのもそのせいっ⁉︎ あー! 何で私は卒業しちゃったの!」  海里は嘆き。 「やっぱりそういう事か!」  蓮は訳知り顔で何度も頷く。  あまりの盛り上がり様に、こっちがついていけない。 「え、何がですか……?」  恐る恐る尋ねると、海里から不思議そうな表情が返ってきた。 「だって咲希と慧、付き合ってるんでしょ?」 「えーっ!」  今度は在校生組から驚きの声があがった。 「え、だって付き合ってもない男女が毎日ビデオ電話する⁉︎ 毎日だよ⁉︎」 「しないしない! しかも勉強してたって事は数分とかじゃないわけでしょ⁉︎ 手で合図を送り合うなんてのもねー!」 「そういえば……」 「確かに! 女同士なら寝るまで一緒にいたりするけど、お風呂上がった後は男子とは会わないなあ」  美玖と萌絵が食い気味に言うと、佳那と京子は納得したらしい。期待に満ちた目がこちらに向く。 「え、でもそんなの聞いてないし素振りもなかったよ⁉︎」 「そんなわけないって。咲希がそういうの隠しておけるわけないだろ」 「そうだよね!」  謙太と博は二人で自己完結したらしく、大変だなとでも言わんばかりの苦笑を浮かべた。  他にも「慧だぞ?」「咲希が恋したら絶対慌てふためくから周りが気付くでしょ?」なんて懐疑的な声や、「慧が付き合えるとしたら咲希だけでしょ?」「いつからだろ? 慧が寮を出た時には付き合ってたって事だよね?」なんて声まであがる始末。  ーーどうしよう。  完全にタイミングを失った。  隣の慧も固まってる。  その時だ。 「二人は付き合ってなんてませんよ! 憶測で言わないでください!」  哲平が勢い良く立ち上がって叫んだ。  それと同時に隣の椅子も動く。 「哲平、違う。結坂と付き合う事になりました! ただ、皆さんの予想と違って今日の深夜からですけど!」  その瞬間。 「お、お赤飯ーっ!」  柚子の今日一番の絶叫が響き渡った。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

544人が本棚に入れています
本棚に追加