十、運命の日

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 そこからは目まぐるしく事態が動いた。  まず。 「ずるいわ。何でそんな素敵な事を私がいない時にするの? 何で誰も撮ってないの?」  帰ってきた姫が盛大に拗ねた。 「急だったんだから撮れませんよ」 「ほんっとにいい物見ちゃいましたー! あの慧が彼女を紹介してくれる日が来るなんて! 咲希の真っ赤な顔も可愛かったし、あれ思い出すだけでご飯何杯でもいけちゃいそうです!」 「おい、柚子煽るなって!」  それを聞いて姫の機嫌は更に降下し、矛先がこちらに向く。 「康介には言ったのね」 「実のお兄さんですから。でも姫にもちゃんと報告するつもりでしたよ」 「なのに皆に先に言うなんて」 「自分達から言ったんじゃなく、バレたんです」 「……二人共、もう一度再現しない?」 「やりませんって!」  その声はぴたりと重なった。    そして翌朝。 「ただいま!」  亜実は約束通り解放された。  目に涙を浮かべ、足も震えているけれど、口元は笑ってる。迎えに行った健司の目が亜実以上に赤いのはご愛嬌だ。 「お帰りなさい!」  口を揃えて出迎えると、亜実は声を震わせた。 「これ……夢じゃないですよね……?」 「夢なわけがないでしょう。一人でよく頑張ったわ。もう大丈夫よ」 「姫っ……」 「亜実、お帰り!」  叫んだ柚子が優しく亜実を包み込む。 「柚子先輩っ……」  その瞬間、とうとう亜実の涙腺が決壊した。  亜実が着ているのは見た事のない黒いワンピース。元から細いのに、少し痩せたように見える。この二ヶ月余り、どれだけ酷い所にいたかが伝わってきて、鼻の奥が苦しくなった。  だけどそれ以上にまた会えた事が、そんな場所から取り戻せた事が嬉しくて仕方ない。 「ちょっと、亜実先輩! 何で俺の時より顔赤いんですかっ!」  健司の言葉に皆が泣きながら笑った。
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