十、運命の日

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 マスコミは連日、ネデナ学園のニュースをセンセーショナルな事件として報じた。 【続いては後輩を想い涙する卒業生の姿が話題になっているこちらのニュースです】 【青少年心理学のための学園の筈が、まさかこんな意図があったとは驚きましたよ】 【本当に。脱落者となった生徒の安否が気遣われますね】 【国を信じて子供を預けた親の気持ちを踏みにじる行為ですよ、これは!】 【現在会計予算の開示請求が行われていますが、国は秘匿性のあるものと説明していて、応じない構えのようです】  家の前には報道陣が押し寄せ、カーテンを開けただけでフラッシュが焚かれる始末。誰か一人でも門から出ようものなら、一瞬でカメラに囲まれてしまう。  姫だけは「これだけカメラがあれば政府もここに無理矢理立ち入ったりできないでしょう。無料のSPね」なんて余裕の笑みを見せているけれど、他の先輩達は買い物に出るだけで大変そうだ。  そして。 「今日もすごいカメラの数だよ? テレビ局全部来てるんじゃない?」  再会した日から毎日のように会いに来てくれる由羅も、げっそりとした表情で家に入って来た。 「はい、頼まれてたホットケーキミックスと牛乳」 「助かる」  体育の教員免許を取るべく大学に通い直している由羅は、細身のパンツがよく似合うかっこいいお姉さん。靴を脱ぐより前に康介に大量の荷物を押し付ける様は自然で、学園にいた頃には想像も出来なかった光景だ。思わず笑みが溢れる。  そのまま由羅と二人、康介の部屋に行くのが恒例になった。備え付けのポットで紅茶を淹れると、由羅はおかしそうに笑った。 「咲希、楽しそう」 「え?」 「来る度にニコニコしてる」 「だって嬉しいし楽しいもん。亜実先輩も帰ってきたし、卒業するまで会えないと思ってた康介と由羅とも先輩達とも会えたし」    そう答えると、今度はからかうように言う。 「彼氏もできたし?」 「もう由羅!」  赤くなって噛みつけば、益々笑われた。  ひとしきり笑って、由羅が持ってきてくれたお菓子を摘む。由羅は康介の仕事用の椅子に腰掛けてペンをくるくると回し、まるで雑談のように切り出した。 「一樹から連絡あった……?」 「……ううん」 「……ほんとに何やってるんだろうね。いくら私や康介に会いたくなくても、可愛がってた咲希になら会いに来ると思ってた」 「うん……」  本当は期待してた。卒業以来会えてないもう一人のお兄ちゃんにも会えるんじゃないかって。でも、会いにどころか連絡一つない。  これだけ報道されていて、知らないわけないのに……。
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