十、運命の日

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 ノートを開くと、前半はレシピ集になっていた。 【ホテル風とろとろスクランブルエッグ♪  1.フライパンにお湯を沸かして沸騰したら弱火にする。  2.ボウルにバター5グラムを入れてフライパンに浮かべて溶かす。  3.卵2個、牛乳大さじ1、塩こしょうをよく混ぜたものをボウルに入れる。  4.底や淵から固まってきたら、真ん中に寄せながら混ぜていく。  丁度いいトロトロの少し手前でおろしてね!】  春奈さん特製モーニングの定番スクランブルエッグを筆頭に。 【ふわふわ卵のオムライス】 【ご飯が進む生姜焼き】 【夜食に! 簡単スープ3種】 【基本のハンバーグ】 【いちごのババロア】  和洋中スイーツ、色んなレシピが並ぶ。  どれもこれも咲希の好物ばかり。春奈さんが作ってくれた物はどれも美味しかったけど、ノートに載っているのは特に大好きな物だ。そんなレシピが二十ページ程も続いてる。  そのままパラパラとめくっていくと、今度は途端に絵が現れた。  最初の見出しは【学校用メイク。】  色鉛筆で顔全体、眉、目、唇の絵が丁寧に描かれていて、横にはメイクの手順が事細かに添えられてる。その次のページからは服やバッグ、靴のイラストがたくさん書かれていて、全てのイラストに【この組み合わせ本当に似合ってた!】【高いご飯に行く時にオススメのコーディネート】【夏のお出かけに♪】なんてコメントがついている。  ーーどれだけかかったんだろう。  考えずにはいられない。今まで見た事がないという事は、夜や咲希が学校に行っている時間、つまり自由時間に書いてくれたという事で。胸が一杯になる。  そして、最後のページには。 【咲希】  急いで書いたのかもしれない。今までのページより崩れた字で手紙が書かれていた。 【今までありがとう。 この1年半、本当に楽しかった。 再教育施設にいた頃は希望なんてなくて、ああ、私の人生終わっちゃったって思ってた。 メイドになれると決まった時も、どんな事をさせられるのか怖くて仕方なかった。 なのに咲希は罠じゃないかと思うくらい優しくて、すごくびっくりしたよ。 クリスマスに奈津紀達と話せた時は、私の人生にこんな幸せが戻ってくるなんて信じられなかった。 どんどん咲希と仲良くなって、頼ってくれるのが嬉しかった。私にできる事は何でもしてあげたいって思った。 私の事を信じて計画の事を話してくれたのも、悩みを打ち明けてくれたのも、ジスランの世話を任せてくれたのも、本当に本当に嬉しかったよ。 咲希の事がどんどんどんどん大好きになっていって、いつからか勝手に妹のように思ってた。 でもね、名前で呼んでも怒らないでくれるってわかってたのに、結局呼べなかったの。 次に会った時には咲希って呼ばせてね。 たくさん恩返しさせてね。 本当に本当にありがとう。 大好きだよ! 谷口春奈】  全てを読み終えて、思わずノートを胸に掻き抱いた。  春奈さんとのたくさんの思い出が甦る。  最初はお互い遠慮ばかりしてた。だけど春奈さんだってわかってからは少しずつぎこちなさが無くなって。ヘアセットをお願いしてからは色んな事を手伝ってもらった。優しくて何でもできる春奈さんは、強がらずに甘えられる存在だった。  一緒にご飯を食べて、お菓子を作って、ジスランをお風呂に入れて、色んな話をした。二人でたくさん笑って、たくさん悩んだ。  暫くは会えないけれど。 「私も大好き……」  次に会う時は今度こそ色んな所に出かけたい。メイドとSランクとしてじゃなく、姉妹みたいに仲のいい先輩後輩として、たくさんたくさん笑いたい……。
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