十、運命の日

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 次の日、咲希の姿はショップ街にあった。  他寮の生徒はドリームランドに行っている人も多いから、人はまばら。そんな中を軽い足取りで進む。 「いらっしゃいませ」 「待ち合わせです」 「咲希!」  待ち合わせの喫茶店には、既に2人の姿があった。 「お待たせ!」  駆け寄れば、呆れたような笑みが返ってくる。 「お待たせってお前、散々心配かけやがって……」 「何があったのか全部話せよ」 「わかってる、ごめんって。でもちゃんと帰ってきたでしょ?」  咲希がそう言ってソファーに座ると、玲央と尚人は同時にため息をついた。  そのまま二人にはしこたま小言を言われた。 「大騒ぎだったんだからな!」 「言えないのはわかるけどもう少しヒント出していけよ」 「何か聞いてないのかって色んな人から確認されたんだからな」 「あ、俺も先生に呼ばれた!」  なんて言葉がひっきりなしに飛んでくるけど、口元は緩んでる。 「わかってる」 「ごめんってば」  言い続けて、漸く形上の許しがもらえた。    その後は届いた飲み物を飲みながら、お互いの十日間を話し合った。 「康介は元気か?」  尋ねたのは玲央だ。 「うん、相変わらずわかりにくいけど、ほんとに優しかった」 「姫さんとうまくいってるんだよな?」 「勿論仲良しだよ。姫が社長、康介が副社長で会社を経営して、大きな家を買って皆がいつでも集まれる場所にしてくれてるの。由羅もたまに来て、姫も含めて三人でご飯食べたりもするんだって!」 「あの由羅と康介がなー」  玲央は喜びと驚きが混ざった表情を浮かべて、またカップに口をつける。すると、今度は尚人が切り出した。 「母さんと父さんにも会ったんだろ? どうしてた?」  その問いかけに一瞬手が止まった。  五年ぶりの再会を思い出す。  五年ぶりに会ったのに、学園から逃げ出してきたのに、第一声は「尚人と心菜は元気にしてる? 苛められたりしてない?」だった。こちらから出すまで、他の兄弟の名前も挙がらなかった。   「元気にしてたよ。心菜と尚人に、もし退学したくなったら無理せず連絡しなさい、一人くらいなら高校とか大学の費用出せるからって伝言」  それを伝えるだけで、精一杯だった。  それから暫く話し込み、カップが三つとも空になったタイミングでそろそろ出ようと立ち上がった。そんな時。 「そういえば」  尚人は思い出したようにポケットから小さな封筒を取り出した。 「これ、工藤先生から保健室に忘れ物だって」  受け取れば、驚く程に軽い。柔らかいから多分クッション材に包まれた何か小さな物。 「ありがとう」  ーー何だろう。  思いながらも、大切に鞄にしまう。 「咲希」 「ん?」 「まあ、ほんとに無事で良かった」 「次はもう少しヒントな! あ、でも脱落者制度がなくなったのは感謝!」  笑う二人に、すごく心配をかけてたのが伝わってきて。 「うん! また連絡するから春休み中にご飯でも行こうね!」  咲希も笑って頷いた。
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