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でも、教えてくれる先輩達はもういない。もっぱら、今までの復習や残してくれたソフトだ。
「今日は雄貴先輩のソフトでいいか?」
「うん。まだやってないのは……このゲーム作りだね」
「一分くらいで遊べるゲームを考えてプログラミングするやつだな」
会話しながらパソコンを動かし、ソフトを立ち上げる。
暫くはキーを叩く音だけが響いた。
やがて、慧が口を開いた。
「なあ」
「うん?」
「ここ、好きか?」
「え?」
思わぬ言葉に、手が止まる。
「この寮、好きか?」
慧はもう一度尋ねた。
何を聞きたいのかわからない。でも、これだけは言える。
「好きだよ」
咲希が言うと、慧もパソコンを操作する手を止めた。
「本当の兄弟みたいに仲が良くて、しょっちゅうふざけて馬鹿騒ぎして……。先輩達は寮の皆を守るために頑張ってくれるし、後輩達は慕ってくれる。ここに来て、今まで頑張って良かったと思えたし、これからも頑張ろうと思えたもん。こんなにいい寮、他にないと思う」
すると、慧は呟くように言った。
「そう、だな……そうだよな」
そして、続ける。
「何で生徒会の事、聞かないんだ?」
「聞かれたくないんでしょ? 流石にわかるよ」
「そうか……。なあ、結坂」
「ん?」
「ちゃんと守ろうな」
何を、とは言わない。だけど、思いは伝わってくる。
「うん」
静かに頷くと、慧は満足げに口角を上げた。
「よし、続けるか」
「これ。一日じゃ終わらないよね?」
「なら、来週までの課題にするか。つまらなかった方が罰ゲームな」
「じゃあお昼おごりで」
「了解!」
それと同時に、視線をパソコンへと戻す。再び、キーボードを叩く音が部屋を支配した。
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