一、新寮長

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一、新寮長

 卒業式の翌日も、咲希と慧の姿はバルコニーにあった。 「ジスラン大きくなったな。それにお利口に座ってる」 「本当に賢いよな。慧の言う事もしっかり聞くんだろ?」 「まあ、よく部屋に行きますし。博と謙太の言う事も聞きますよ」  感心する孝則と健司に、慧が答える。ジスランは褒められたのがわかるのか、嬉しそうに尻尾を振った。  咲希はそこにティーポット片手に加わった。 「できましたよー。ロイヤルミルクティーです。二、三分蒸らしたら完成です」 「お、サンキューな」 「柚子先輩のレシピ通りにはやってるので、まずくはないと思います!」  ティーポットを慧へと渡し、そのまま横に腰かける。  テーブルを囲んで四方に並ぶ二人がけソファーのうち、一番奥が孝則と健司の指定席、向かって左が、咲希と慧の指定席だ。 「流石柚子先輩だよな。紅茶の淹れ方レシピ、全部置いてってくれたんだろ?」 「うん。そこの本棚に、茶葉それぞれの美味しい淹れ方と、合うお菓子と売ってるお店が書いてある『柚子式ティータイム』っていうファイルがあったの」  咲希の言葉に、孝則と健司も笑う。 「本当にいつの間にって感じだよな」 「俺らへのサプライズで置いてってくれたんだろうな。すごく時間かかってそうだし」 「時間かかりますよ! 後でコピーして、談話室にも置かせてもらいますね」  向かいのソファーに二人がいないのは寂しいけれど、二人がいた証はそこかしこに残ってる。それだけで嬉しくて、和やかな雰囲気となった。
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