337人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「どうも。宮本です」
自分以外の誰かがすでに探偵を使って遥を捜しているのだろうか。悠真は注意深く名刺に印刷された文字を追う。
『宮本探偵事務所 所長 宮本敦志』
こんなものいくらでも偽装できる。迂闊に信用はできない。
「所長っていうか、一人でやってるんですけどね」
宮本は前髪を掻き上げ不敵な笑みを浮かべる。顎には無精髭。悠真たちとそう年齢も変わらないように見えるが、強烈な人間臭がした。
(たとえば修羅場をくぐってきたかのような)
鋭く剣呑な目つきに悠真は一段と身を引きしめる。オフィスに招き入れるべきではなかったかもしれない。
ミリタリージャケットを脱いだ宮本の、肩や腕の逞しい筋肉を目にして後悔を深める。
(傭兵かよ)
一般人とは思えないガタイの良さだ。悠真と穂積の二人がかりでもとても敵いそうにない。危険な相手でないことを切に願う。
「誰からの依頼で小山遥さんの調査を?」
目の前にいる宮本が何らかの情報を持っているのなら、この際洗いざらい聞き出してやろう。悠真のほうも臨戦態勢に入る。
「依頼主の情報を開示することはできませんよね、普通?」
「でしたらこちらからも情報をお渡しできません」
高圧的な態度に、やはり宮本は警戒すべき相手だ、と悠真は判断した。そもそも本物の探偵なら調査対象にあやしまれるような登場の仕方はしないだろう。
ここにあらわれたということは、すでに自分や会社については調査済みと思っていい。
(宮本の目的はなんだ?)
打ち合わせスペースで向かい合う宮本はマイペースに鞄を探っていた。穂積たちはあえて仕事の手を休めず距離をとっている。
日が落ちはじめ室内も薄暗くなってきた。光と緑が溢れ快適なはずの空間が、重苦しい空気に包まれていく。
「ええと、フェアにいきましょう。こちらがお教えできることはすべて話します」
宮本は書類ファイルをテーブルに置いた。
「失踪された小山遥さんの調査を進めていくなかで、このような事実が分かりました。これは実物じゃない。コピーね」
A3サイズの用紙が悠真の前に差し出される。見出し部分には『ドリームライフ』とある。被保険者名の欄には『小山遥』の名前。
「これは生命保険の設計書ですね。遥、いえ、小山遥さんが生命保険に加入していたということを、おっしゃりたいのでしょうか?」
遥は社会人なのだから保険のひとつやふたつ入っていたところで不思議ではない。
最初のコメントを投稿しよう!