02沈黙する狂気

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 二人のハッピーエンドはすぐそこだったのに。 (せめてきちんとプロポーズはすべきだったな)  悠真に正確な未来図は見えていなかった。二人の未来は、情けないながらなにもかもが穂積のお膳立てだった。 「久我はさぁ、遥ちゃんのことマジなの?」  いきなり穂積に詰め寄られ、「結婚するつもりだけど」と悠真は漠然と思っていたことを口にした。 「よく言った。あとは俺に任せろ」  そこからは新居のことも結婚の準備も、「オマエの嫁は俺の嫁。オマエも俺の嫁」と、なぜか穂積主導ですすめられていった。 (面白いやつ)  時々理解し難いこともあるが、悠真は穂積を誰よりも信頼している。穂積のおかげでそれまでの鬱屈(うっくつ)した過去が一変し、大学生活は賑やかで充実したものとなったからだ。 (だからって任せすぎか)  悠真らしく几帳面に、剥がしたガムテープをまとめる。 「続きをやろう」  悠真は段ボール箱の中をざっと見渡し、あやしいとにらんだクリアファイルを取り出した。『重要書類』とラベリングがされたファイルには、予想通り、保険契約ごとに保険証券と約款がまとめられている。誰が見ても分かるように分類しているところが、さすが遥だ。悠真は遥が存在した(あかし)に胸を熱くしながらファイルをめくっていく。  Booyah!(やった!)  心の中で叫んだ。  ファイルから『ドリームライフ』の保険証券を抜き取る。喜びもつかの間。  宮本の推理は正解だった。保険証券には『死亡保険金受取人 久我悠真』と記されている。  悠真はこめかみを押さえた。 (分からない)  再び証券をファイルに戻そうとしたとき、はらりと床へ名刺が落ちる。 「ファイナンシャルプランナー、斎藤初音(さいとうはつね)」  おそらく保険代理店の担当者だ。さっそく連絡してみようと悠真はスマホを取り出す。そこで不可解な点に気づくのだ。 「千葉県?」  代理店の住所は千葉県市橋市とある。遥の住民票は東京都江戸川区にあるはずだし、勤務先は江東区だった。わざわざ千葉県の保険代理店を選んだ理由はなんだろう。 (とりあえず連絡だ)  悠真は斎藤初音の携帯へ電話した。 「久我と申します。小山遥のことで……」  いまだ遥へたどり着ける糸口がつかめない。それでも図面をどこまでも細かくチェックしていくように、何度も見直す。  住宅が完成するまでの過程と同じ。ひたすら試行錯誤する。それがなにより成功への近道なのだから。
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