337人が本棚に入れています
本棚に追加
二人のハッピーエンドはすぐそこだったのに。
(せめてきちんとプロポーズはすべきだったな)
悠真に正確な未来図は見えていなかった。二人の未来は、情けないながらなにもかもが穂積のお膳立てだった。
「久我はさぁ、遥ちゃんのことマジなの?」
いきなり穂積に詰め寄られ、「結婚するつもりだけど」と悠真は漠然と思っていたことを口にした。
「よく言った。あとは俺に任せろ」
そこからは新居のことも結婚の準備も、「オマエの嫁は俺の嫁。オマエも俺の嫁」と、なぜか穂積主導ですすめられていった。
(面白いやつ)
時々理解し難いこともあるが、悠真は穂積を誰よりも信頼している。穂積のおかげでそれまでの鬱屈した過去が一変し、大学生活は賑やかで充実したものとなったからだ。
(だからって任せすぎか)
悠真らしく几帳面に、剥がしたガムテープをまとめる。
「続きをやろう」
悠真は段ボール箱の中をざっと見渡し、あやしいとにらんだクリアファイルを取り出した。『重要書類』とラベリングがされたファイルには、予想通り、保険契約ごとに保険証券と約款がまとめられている。誰が見ても分かるように分類しているところが、さすが遥だ。悠真は遥が存在した証に胸を熱くしながらファイルをめくっていく。
Booyah!(やった!)
心の中で叫んだ。
ファイルから『ドリームライフ』の保険証券を抜き取る。喜びもつかの間。
宮本の推理は正解だった。保険証券には『死亡保険金受取人 久我悠真』と記されている。
悠真はこめかみを押さえた。
(分からない)
再び証券をファイルに戻そうとしたとき、はらりと床へ名刺が落ちる。
「ファイナンシャルプランナー、斎藤初音」
おそらく保険代理店の担当者だ。さっそく連絡してみようと悠真はスマホを取り出す。そこで不可解な点に気づくのだ。
「千葉県?」
代理店の住所は千葉県市橋市とある。遥の住民票は東京都江戸川区にあるはずだし、勤務先は江東区だった。わざわざ千葉県の保険代理店を選んだ理由はなんだろう。
(とりあえず連絡だ)
悠真は斎藤初音の携帯へ電話した。
「久我と申します。小山遥のことで……」
いまだ遥へたどり着ける糸口がつかめない。それでも図面をどこまでも細かくチェックしていくように、何度も見直す。
住宅が完成するまでの過程と同じ。ひたすら試行錯誤する。それがなにより成功への近道なのだから。
最初のコメントを投稿しよう!